8章 ターゲットは

     5


「拓斗くん!」
 リンは、まだ爆煙が立ちこめる中、拓斗のいた辺りに走っていく。ランも、その後に続く。
「拓斗……くん……」
 ようやく煙が晴れると、そこには呆然と立ち尽くす拓斗がいた。
「間に合ったようですね。よかったですわ」
 ランは、ほっと安堵しつつ、そう言った。どうやら、いちはやく危険を察知したランが、爆発が起こるコンマ一秒ほど前に、拓斗の 周りにシールド魔法をかけていたようだ。
「拓斗くん、大丈夫?!」
 未だ呆然と立ち尽くす拓斗に、リンは拓斗の肩を揺らしながらそう言う。拓斗は、そんなリンにようやく気付き、
「リ……リンさん……オレ……」
 と、少しかたことながら、そう言った。
「拓斗さん、リンさん、落ち着いてください。わたくしがシールド魔法で拓斗さんをお守りしたので、大丈夫ですわ」
 そんな拓斗の様子を見て、ランがそう二人を安心させるように言う。
 そのランの言葉に、拓斗はハッとなって我にかえり、
「あ、うわぁ、びっくりしたぁ! 本気でオレ死んだかと思ったよ!」
 と、少し大きめの声でそう言い、最後にフゥ、と安堵の息をもらした。
 それを見て、ようやくリンも安心したようで、
「よかったぁ……。拓斗くんにもしものことがあったら、あたしぃ……!」
 と、最後の辺りは半泣き状態になりながらそう言った。
 そんなリンを、拓斗は優しい目で見たあと、今度はランに視線を移し、感謝の意を表そうとする。
「あの、ランさん、また助けてもらっちゃっ……」
 だが、それは叶わなかった。
 なぜならランが、
「逃がしませんわよ、そこっ!」
 と、突然ランが鋭く叫んで、扇子をバッとあおいだからだ。
 その直後、拓斗とリンの後ろの茂みから、地震が起きたかのような轟音が響き、驚いた二人が振り向くと、その茂みの辺りだけ、 まさに地震が起きているように、激しく揺れていた。それは、ランの魔法だった。拓斗とリンが、そんな光景を呆然と見ている間にも、 その揺れのせいで、その辺りの地は割れ、次々に木々が倒されていく。
「す、すごい……」
 拓斗は、思わずそうポツリともらしてしまう。
「クッ、逃げましたわね。しかたありません、追いますわよ、リンさん、拓斗さん」
「え、ちょっと、話が見えないんだけど、ラン」
 しばらくそんな様子を見ていたランだが、ランはそう言って駆け出そうとする。だが、そんなランを、リンがそう言って 呼びとめる。
「そこの木陰に、拓斗さんを狙って魔法をかけてきた輩がいましたわ。それが今逃げたようです。早くしないと、完全に逃げられてしまい ますわ!」
 ランは振り返らずに早口でそう言うと、無印魔法で能力向上魔法の速度上昇を使い、目にも止まらぬ速さで、その拓斗を狙った敵が 逃げた方向に走っていった。
 残された二人も、
「拓斗くん、あたし達も追うよ!」
「う、うん!」
 そう言って駆け出そうとした。が、その直前、
「あ、待って、リンさん。……オレ、自分が速くなる魔法どうイメージすればいいか分かんない……」
 と言って、そんなリンを引き止める。
「あ、そっか。んーと、自分が速く走っているのをイメージするんじゃなくて、んー、なんていうの? もう、うん、あれよ、だから、 う〜〜! そうだ、うん、そういうふうになってる自分から見える景色をイメージするんだよ! よし、分かったね、拓斗くんっ!」
 リンは、そうとう焦っているらしく、半ば自分でも何を言っているか分からないような状況に陥っていたが、なんとか自分の中で、 そう、あくまで自分の中でまとめてそう言うと、ランのあとを追って、こちらも無印魔法を使い、走っていった。
 最後に残されてしまった拓斗は、困りに困ってしまった。
(え、ちょっと待ってよ……。そんなテキトーな……。……で、でも、これはオレの問題なんだよね。 なんで狙われたのか分かんないけど、とにかくオレもいかなきゃ!)
 だが、自分の中でそんな答えを出し、リンに言われたとおり、自分の走る速度が上昇した時に見えるであろう景色をイメージ し始めた。拓斗は、走っている車や電車の中から外を見たときに見える景色や、自分が走っているときの風をきるかんじを イメージしていた。
 そして、
「よし、今だ!」
 そう言って勢いよく手をパンと叩き、ダッと走り出した。
 次の瞬間、拓斗のいたその場所には、拓斗が走り出した際に生じた、砂煙しか残っていなかった。


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