8章 ターゲットは

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「拓斗さんはとにかくリンさんに向かって水の魔法、リンさんは能力向上魔法を使わずにそれをかわし、威力を落とした魔法で拓斗 さんを攻撃してください。ただし、有印魔法でおねがいします。実戦的なほうが覚えが早くなりますから!」
「いくよ、リンさん!」
「ランの指図を受けるのは気に入らないけど、拓斗くんのためだもんね! どこからでもいいよ!」
 ランのその言葉に、拓斗もリンも構え、拓斗は水のイメージを始めていた。リンは、はじめこそ嫌がっていたものの、ランの熱の入った その姿勢と、自分の子である拓斗を強くしたいという気持ちから、そのランの教育に付き合うことにしたのだ。
 ちなみに有印魔法とは、無印魔法の逆で、手を叩くなどの合図を経て、使用する魔法のことである。
「えい、えい、えい!」
 拓斗は、そんな妙な掛け声とともに、手を三回叩いた。すると、リンの頭上に人の頭ほどの大きさの水のかたまりが現われた。
「そんな単純なやり方じゃ、あたしに当てるなんて無理だよ〜!」
 リンは、その水のかたまりが落ちてくる前に、後方に軽くジャンプでよけながら、余裕の笑顔でそう言った。
 だが、
「え?」
 その瞬間リンは、背後から水を受けてしまった。拓斗は、二番目に発動した魔法で、リンの死角にあらかじめ水のかたまりを出しておき 、はじめの魔法をよけたリンの、隙ができたところを狙い、その二番目の魔法を横に動かすことでリンにぶつけたのだった。意表をつかれ たリンは、それに当たってしまったというわけである。
「な、油断しちゃったよ! でももう……」
 リンは、そんな意外な拓斗の魔法の使いかたに驚きつつも感心し、こちらも魔法を発動するぞと言わんばかりに手を叩く構えをした、 が、その直後、
「きゃあ?!」
 今度は頭から、思いきり水をかぶってしまった。これが、拓斗が三番目に発動していた魔法である。
「うわぁ……今度は下着までグショグショかも……」
 リンは、せっかくランとの戦いで乾いていた服が、また濡れてしまい、げんなりとしてそう言った。
 拓斗は、自分の魔法が上手くリンに当たったことを喜びつつも、そんなリンの様子を見て悪いと思い、謝ろうとした。
 だが、
「素晴らしいですわ拓斗さん! 実戦的な魔法の練習はこれが初めてなんでしょう? なのにこんな魔法の組み合わせと使い方をする なんて、やはりあなたは天才ですわ!」
 と、ランが、拓斗の両手をガシッと握り、キラキラした目でそう言ったため、拓斗はそうすることができなかった。
「いや、その、ゲームとかでなんとなく慣れてるから……」
 そして拓斗は、ランの勢いにおされ、そう言うことしかできなかった。
「ちょっとー、あたしは無視ー?」
 そんな二人を見て、リンがふてくされたようにそう言う。
「あなたは火が得意なんですから、それで乾かせばいいじゃないですか」
 ランは、そんなリンを見て、ヤレヤレといったかんじでそう言う。
 だがリンは、そんなランの反応に納得いくはずもなく、
「そんなテキトーな! だいたいそんなことしたら熱いし」
 と、一歩前に出つつそう言う。
「では、服を脱いでやればいいじゃないですか。隠す胸もないことですし……」
「にゃ、にゃに〜〜?!」
 そして、そんなランの発言が、火に油を注いでしまう。だがランは、それを狙って言ったようである。
 拓斗は、そんな二人を見て、また始まった、などと考えていた。
 と、その時突然、
「危ないですわ拓斗さん!」
 リンと言い争いを始めていたランが、鋭くそう叫んだ。
 拓斗は思わず、
「え?」
 と言うだけで、どうすることもできなかった。
 次の瞬間、拓斗の周りで、地雷を踏んだかのような爆発が起きた。
「……! 拓斗くん!!」
 その場には、そう叫んだリンの声さえかき消すほどの、爆音が轟いていた。


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