「軽井沢か〜。1回行ってみたかったんだよね〜」
ここは優が運転するワゴンの中。
みやびの家に泊まった日の1週間後、スーペリアの案内で、さらに詳しい情報を求めるべく軽井沢にむかっているのだ。
軽井沢といえば、避暑地である。
夏などには別荘にくる人達なので少しはにぎわいをみせるが、今は秋から冬に変わる時期である。そんなときに軽井沢
に来る人などはまずいないだろう。しかし、スーペリアの話によると、その人物は、別荘に常に住んでいるとのことだった。
正直、優達は半信半疑の部分もあるのだが、とりあえず軽井沢に向かうことにしたのだった。
今日ここに来ているのは、ツー・ウェイとそのマスター、総勢9人である。
優の車は、普段は仕入れに使うためにそれなりに大きいのだが、全員とりあえず大人であるので、やはりキツイことにはかわ
りなかった。
「おい、フィア! もっと向こうよれよ、バーカ」
「無理です」
「じゃあランス! お前だ、バーカ」
「どうみたって隙間ないだろ」
ちなみに、車の座り方はこうだ。まず運転席に優。そして助手席にみやび。その後ろの普通は3人乗りのところに、スピア、ランス、
アフレイド、フィア。さらにその後ろの2人乗りのところには、大地、スーペリア、インフェリアの3人がのっていた。乗る前は、
たかが定員2名オーバーとたかをくくっていたスピア達だったが、いざ乗ってみるとなるとかなりキツかったのだった。
「あぁ、うるさいよクリ! 少しは落ち着きなって」
「クリっていうな女男っ!」
「な、なにぃ〜?!」
「ゆ、優さんもおちついてよ〜!」
運転手である優が、後ろを振り向いてアフレイドに殴ろうとしたので、すかさずみやびがとめにはいる。
実は、さきほどから同じようなことが何度も起きているのだ。そのたびに周りの者はヒヤヒヤものである。
「みなさん、本当に落ち着きましょう。なにか話しでもしましょうよ」
スーペリアが、全員にそう呼びかけると、少しはアフレイドも静かになった。
「で、なんの話すんだよバーカ」
とりあえずアフレイドはそう切り出した。するとスピアが口をひらいた。
「この前スーペリアの話の中で、天性軍と地性軍が戦ったっていう話あっただろ? その中の生き残りって、今もう地球に
いないのかよ?」
この言葉に、大地がすかさずつっこみをいれる。
「おいおいおい。その戦争って300年以上も前の話なんだよな? 今もいるわけないんじゃないか?」
大地のつっこみはもっともだ。……地球人の考えとしては、の話だが。
「? どういう意味だ?」
スピアが首をかしげてそう大地に問う。ほかのツー・ウェイも同じ考えのようだ。
「どういう意味って、たとえその戦争で生き残っててもさすがにんなアホみたいに長くは生きてられないじゃないかーって話」
その大地の当たり前の反応に、ますます首をかしげるツー・ウェイ一同。
「なぁ、フィア。お前何歳だ?」
ランスが、フィアにそう問う。なぜそんなことを聞くのか疑問に思う大地。そして優とみやび。
「161歳です」
「まぁそんなとこだろうな」
あっけらかんと答えるフィア。
その後、数秒沈黙が訪れた。そして……
「え〜〜〜〜〜〜?!」
マスター3人の声が車内に響き渡った。思わず耳をふさぐツー・ウェイ6人。
「え? え? じゃ、じゃあスーペリアは何歳なの?」
パニくっているみやびだが、そんな中でも気になって問う。
「ボクは184歳です。もちろんインフェリアも同じです」
またしてもあっけらかんと答えられ、ますますわけがわからなくなるマスター3人。
「そ、それじゃあなにか? お前らよく映画でみるけど、宇宙人は何万年も生きるーみたいなことになってんのか?」
大地はパニくっているせいで少し変な日本語でそう言った。
「さすがに何万年も生きるやつはいねないと思う。どんだけがんばっても1000年が限界かな?」
普通に答えるスピアだが、大地達はとまどいをかくせない。スピア達ツー・ウェイは、どうみたって15歳から20歳くらいである。
しかし、本人達はその十倍の年を言うのだ。もしかしたら、地球と年の数え方が違うのかもしれない。そう思った優が聞いてみたが、
どうやら同じらしい。つまりは、スピア達は本当にその年齢で、軽く優達より年上ということだった。
SF系のものを見るとたまにあるこういう年齢の設定。本当にそうだったのか、と、落ち着いたあとで認識する優達であった。
そんなこんなで、ようやく軽井沢の別荘地帯にきた一行は、とりあえずスーペリアの案内に従い歩き始めた。
さきほども示したとおり、ここは避暑地である故に、寒くなってきた今は人をみかけることはなかった。
「あ〜、う〜、あたし基本的に大きい家とかってだけで緊張しちゃうんだよねぇ……。どうしよ」
みやびのマンションを訪れたときにも少し口にしていたが、田舎暮らしの長い優にとって、”高級”とか”贅沢”とかいうことには
体も心もうけつけないらしいのだ。
一方大地はと言うと、現役学生故に都会慣れしているため、優と同じような素振りをみせることはなかった。みやびもまた然り……
なのだが、次の瞬間驚きの言葉を放つ。
「あ〜、あの赤い屋根のとこ、あたしん家の別荘だよ〜」
「えええええええ?!」
みやびがそう言い終えると、大地が昭和の芸人のようなリアクションをとりながら驚いた。
「ええ? あの赤い屋根のやつってみやびちゃんの別荘なの??」
「今そう言ったよ? 大地くん」
サラっと答えるみやび。大地はなんだか力がぬけてしまったような気がした。
ちなみにみやびは、とある巨大会社の社長令嬢である。故に、一人暮らしの高校生が銀座の高級マンションに住んだり、
軽井沢に別荘があったりするのだ。彼女にとってはこれはあたりまえのことともいえることなのだが。
今日は驚きっぱなしの優と大地だが、とにかく目的地を目指し、歩くのだった。