「いくぜ!」「いくぜ!」
スピアとランスは気合もろともそう叫び、それぞれ青と赤の光の槍を出した。そして、スピア&ランスVSアフレイド&フィア
の戦いがきっておとされた。
始めに動いたのはアフレイドだ。左右にジグザグ走りながらじりじりと近づいてくる。しかし、そんなこけおどしに動じる
スピアとランスではない。ギリギリまでひきよせて、相手の放った拳をいとも簡単にかわした。
「へぇ、お前の武器はその拳かよ」
「そんなんじゃ槍には勝てないぜ」
スピアとランスは、余裕の表情で、なおもアフレイドから放たれる拳を左右上下に、鮮やかにかわしていった。
しかし、スピア
とランスは、言葉と表情とは裏腹に、少し危機感を感じていた。アフレイドは、二人同時に攻撃している。そして、いくら
かわされているとはいえ、相手に反撃の隙を与えない。しかもその攻撃のスピードは、あきらかに速くなってきている。
さらに蹴りまで加わり、スピアを攻撃したらランス。そしてまたスピア。この流れを、ものすごいスピードで行っているのだ。
ここはいったん態勢を立て直さなくては、そう思った二人は、一歩後ろにさがろうとした。しかし、それがいけなかった。
アフレイドの攻撃をかわすのに夢中になっていた二人は、フィアの存在を忘れていた。
「いまだフィア!」
「なっ!!」
一歩下がった瞬間に生まれた隙を、フィアは見逃さなかった。一瞬のうちにスピアの後ろにまわりこんでいたのだ。
「危ない!スピア!!」
優の叫びもむなしく、スピアは後頭部にフィアの放った拳を食らってしまった。女だと思って油断していたが、その
拳はそうとうの威力をもっていた。故に、スピアはおもわず前のめりにたおれてしまった。
と。その瞬間妙なことがおきた。フィアはもとより、アフレイドの攻撃を受けていないランスまでもが、後頭部
をおさえてたおれてしまったのだ。いきなりのできごとに困惑する優と、痛みをおさえながらそれを見るスピア。
「ちょ・・・なにやってんだい!ランス!!」
おもわず優はそう怒鳴ってしまった。しかし、ランスの答えは意外なものだった。
「オレが知るかよ!なんかしらんが、スピアが倒れたと思った瞬間、オレの頭にも痛みが走ったんだ。・・・べつに
そいつら二人にやられたわけじゃねーのに」
優とスピアはますます困惑してしまった。
「はぁ?お前らそんなこともしらんでツー・ウェイやってんのか?」
「ツー・ウェイは、もともと一人の人間。その一人から分裂した二人の人間はいわば一心同体。つまり一人が攻撃を
うければ当然もう一人にまでそれと同じ衝撃が襲う。もちろん私達もツー・ウェイ。同じことがおきます」
フィアのいいたいことは、3人はなんとなくは理解できた。しかし、どうしても解せないひとつの単語。
ツー・ウェイ
「さっきからツー・ウェイツー・ウェイやたらいってるけどさ、それっていったいなんなんだい?」
思わずその疑問を口にしてしまう優。
「へっ、話になんねーよ。どーせお前らは死ぬんだよバーカ」
「それを知っても、意味を成さない」
アフレイドとフィアはそう言って、また戦闘態勢に入った。それを見たスピアとランスもまた然り。優は後ろにさがった。
「さっきからお前らは死ぬって、なにか勘違いしてるんじゃないか?」
「死ぬのは・・・」
「お前らだ!」「お前らだ!」
スピアとランスはそう言い放つと、アフレイドとフィアにそれぞれ向かって走り出した。それに対してアフレイドとフィアは
「フィア、そろそろいくぜっ」
「わかりました」
と言って、それぞれ両手をあわせた。そして手をひらくと、その手と手の間には、黒い拳ほどの球体が現れていた。二人に
向かって突撃しようとしていたスピアとランスは、それを警戒して足を止める。
「優!なにが起こるかわからねぇ」
「注意しとけ!」
二人がそう言った瞬間、アフレイドとフィアは
「へっ、オレらの力をみせてやるっ」
「BCの力。みせます」
「恐怖に食われちまいなバーカ!」
そう言って、手と手の間隔をじょじょに広めていった。それと同時に黒い球体も大きくなっていく。そして、30センチくらい
ひろげたところで、一気に手と手の間隔をひろげた。すると、その黒い球体がはじけ、スピア、ランス、優の視界は一瞬暗闇
に閉ざされた。
しかし、暗闇がとけてあたりを見回しても、なにかこれといってかわった様子はなかった。
「なんだ?こけおどしか?」
「そんなもんでビビるオレらじゃねー!」
そう言って槍をかざし、アフレイドとフィアに向かって攻撃をしかけようとしたそのときだ。
「きゃ〜〜〜〜」
後ろで優の悲鳴が聞こえた。
「しまった!優のほうか!」
二人は急いで優のいるほうを向く。優は悲鳴をあげ、走りまわっていた。しかし、スピアとランスには優がなぜ走りまわって
いるのか、まったくわからなかった。
そんな二人をよそに、とにかく走りまわる優。
――「きゃ〜〜〜〜、ちょっと助けなさいよ二人とも!!」
そう必死に叫ぶあたしだったけど、スピアとランスはこっちを向いたままなにもしなかった。あたしはどうなってもいいわけ?
そうこうしている間にも、さっき暗闇がはれたときから急に現れたものすごくデカイクモがあたしを襲ってくる。あたしは
クモが世界一番、最大級にきらいなのに。ただでさえきらいなのにやたらデカイのだ。もうあたしはそれこそ失神しそうだ
った。でもそうしたらきっとクモに殺される。そう思ったあたしはとにかく逃げることにした。
もうそれしか、あたしに残
された術はない。もうとにかく逃げた。逃げた。逃げまくった。わき目もふらず、とにかく逃げた。――
「優のやつ、なんで走りまわってんだ?」
「さぁな。変な夢でもみてんじゃねーの?」
スピアとランスは、顔を見合わせ苦笑していた。優がみえている巨大なクモ。二人にはなぜかみえていなかったのだ。
今二人に
うつるものは、とにかく目の前の二人の敵だけだった。二人はまた槍をかまえなおし、アフレイドをフィアに向かって走りだし、
「でやぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」「でやぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」
気合もろとも、槍を振り下ろした。
グサッ
槍は、二人とも見事に命中させ、アフレイドとフィアの体は真っ二つになった。
「へっ、最後はあっけねぇな」
「だな、あんなに威勢がよか――」
ランスが、そこまで言いかけたときだった。真っ二つになったアフレイドとフィアから流れ出てくる血が、沸沸と沸騰しだしたのだ。
「な、なんだ?!」
スピアがおもわずそう叫んだときには、すでにその血液は激しく沸騰し、煮えたぎっていた。
そして、次の瞬間血液が一気に飛び
散った。そして、その血液が、なんとアフレイドとフィアの体を生成し出したのだ。そして血液はまたたくまに二人の体を作った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
二人は驚きのあまり大声で叫んだ。そして、
「くそ、くそ、くそ、くそぉ〜〜!!」「くそ、くそ、くそ、くそぉ〜〜!!」
血液によって作り上げられたアフレイドとフィアの体を、激しくきりつけた。また真っ二つになるアフレイドとフィア。そして
また流れ出る血液。その血液は、またしてもアフレイドとフィアの体をまたたくまに作り上げていった。
それを見たスピアと
ランスは、狂ったように槍を振り回した。しかし、何度やってもアフレイドとフィアは復活するのだ。
「くそ・・・はぁ、はぁ・・・」
スピアとランスは、つかれきってしまった。二人の前にはアフレイドとフィアが立っている。
そして、じょじょに二人に近づいて
くる。スピアとランスは、すでに動く体力も気力もなかった。アフレイドとフィアは、それぞれスピアとランスの後ろまで歩いて
きた。
そして、拳をふりあげ、思いきり二人を殴った。前に吹っ飛ばされるスピアとランス。しかし、立ちあがれない。
アフレイド
とフィアは、また一歩一歩スピアとランスに近づいてくる。そして、またその拳で殴りつけた。
スピアとランスは、何度も何度も
殴りつけられた。しかし、抵抗はできない。二人は、もう死を覚悟していた。
と、次の瞬間、二人の目に信じられない光景が映った。周りの景色が、まるで鏡を割ったかのようにくずれおちていく。すべて
が崩れ落ちると、また同じ景色があった。そして、自分達の目の前にはアフレイドとフィアが立っていた。
「くくく、どうだったかな?悪夢の味は」
「精神がみたもの。それは現実ではありません」
「だがな、脳がそれをそう見た。そう解釈すると体は本当に起こっていないことでもその脳がみたことにわせちまうんだよ」
「つまり、たとえそれが夢であっても、それは現実に起こった、ということになるのです」
アフレイドとフィアのいっていることを簡単にいうならば、催眠術と同じ原理といえる。
例えば、それがなんのへんてつもない
木の棒だったとしても、催眠術で、その木の棒は火のついているたいまつだ。そう思いこませ、催眠術をかけられたものにあてると、
みずぶくれができている。それと同じ原理ということだ。
「へっ、まぁ死にぞこないのお前達にいっても無駄なことか」
「これで終わりです。安らかな眠りを・・・」
二人はそう言って、拳をふりかざした。スピアとランスは、やはり動くことができなかった。
ギ、ギーーーーーー
そのときだった。どこからか、耳をふさぎたくなるような異様な音が聞こえてきた。
「ちぃ、こんなときに!」
「ドール」
アフレイドとフィアは、その異様な音、いや、声が聞こえたほうを向いてそう言った。そこには、この前優達を襲った異形と
同じ者が、また2匹いた。
「フィア、さきにドールだ」
「はい」
二人は、そう言ってドールと対峙した。