「な、なんなんだいあいつは?!」
優が異形を指差してそう言った。異形は2匹いた。その容姿を簡単にあらわすのであれば、
ワニを2速歩行にして、手足を長くしたかんじ、とでもいおうか。そして両手にカギ爪を装備していた。
「さっきまだインペリアにねらわれてるかもっていっただろ?たぶんしつがおくりこんだ刺客かなんかだぜこりゃ」
「だろうな。あきらかにあの目、オレらをねらってやがるぜ」
驚いている優を尻目に、スピアとランスは余裕シャクシャクといったかんじだ。
「えぇ?!ちょっとまってよ。じゃああの話って・・・」
「本当だ」
――スピアとランスは、そう言った直後、スピアは右手、ランスは左手をカッとひらいていた。
あたしはなにをやっているのかわからなかった。「とにかく逃げよう」そうあたしは言おうと思っていた。
しかし、次の瞬間スピアとランスの手から、青と赤、それぞれの髪の色と同じ色の槍がスッと誕生した。はじめはそれぞれただの光だったのに、それが凝縮されて槍をつくっているようにあたしは見えた。――
「優、さがっとけよ。一瞬で片付けるから」
「オレらならこんな雑魚2匹たおすなんて朝飯前だ・・・ほんとにまだ朝飯食ってないけどな」
とにかく驚いている優。いまだ余裕をかましているスピアとランス。そしてこちらをにらみつけている異形が2匹。
優は困惑していた。目の前で繰り広げられている光景もそうなのだが、それ以上に昨日の二人の話を
信じないといけない、ということもあった。とにかく優は困惑しているのだ。
そして、ついに二人の槍使いと2匹の異形との戦いが始まった。
――そう、あたしは戦いが始まった、と思った。しかし、次の瞬間何も起こっていない。少なくともあたしにはそう見えた。でも、それは違っていた。さきほどこちらをにらみ立っていたワニ怪獣がいなかった。いや、そうではなかった。あたしが視界を落とすと、そこには腹のあたりから真っ二つになったワニ怪獣がよこたわっていた。でも、そのワニ怪獣からは――
「へっ、弱すぎるぜコイツ」
「キメゼリフ言う暇もなかったな」
「・・・しかし気になるな、これ」
「あぁ、血が1適もでねぇ。それに・・・中身もカラッポだ」
その真っ二つになった異形を見ると、血がでていなかった。しかも、内臓などの部位をみうけられない。
中身は”空洞”なのだ。その異形は、皮膚だけでできていた、といってもかごんではない。
だが、そんなことはありえるのだろうか。少なくとも地球上では100%ありえないといってもいい。
だが、目の前に横たわっている異形は、まさにそれをくつがえしているのだ。・・・地球上の生物だとすれば。
「へっ。なるほど人形(ドール)ってか」
「インペリアならこれくらいのこと可能かもな。あいつバケモンだし」
スピアとランスは、あたかもそれが当然かというように、話していた。また困惑の材料が増えてしまった優。
これ以上ためこんだら爆発しそうだ。そう考えた優は今までの疑問をぶつけることにした。
「にしてもなぁ。二人になった影響か武器ちがってるもんな」
「んだなぁ。前まで両側に敵を切る部分あったのにさっきの方ッぽだけだもんな。これじゃ槍双じゃなくて・・・なんてんだ?槍一?へんだ」
とりあえず優に聞かれたこと全てを答えたので、雑談をはじめていた。その隣では優がなにやら考え事をしている。
優がぶつけた疑問は3つ。まずはさきほどの”ドール”のこと。次に本当に二人は一人だったか、ということ。
最後にインペリアはどんなやつで、なんでスピアとランスをねらっているか。以上の3つだ。
始めの二つの疑問は、とにかく怪奇現象。と自分を強引に納得させた。しかし問題は最後のひとつだ。
インペリアという人物像もよくわからないし、ドールを送ったのがそいつだとすれば本当にもう・・・謎だらけだ。
もっとも、インペリアのことはスピアとランスもよくわかっていなかった。ただ、母の形見であるジャベルのときの武器、
槍双をねらわれていて、一度戦ったが、まばたきするほどの瞬間でやられてしまうぐらい強い。ということだけしかわからなかった。
しかし、優はもう考えることをやめた。疑問をためこんで爆発しそうだったが、今度は考えすぎて爆発しそうだった。
優は性格上あまり頭を使うことが苦手で好きではなかった。それ故に、さっさとあきらめることにしたのだ。
と、ここでスピアが、あることに気づいた。
「なぁ優。そろそろ帰らなくていいのか?」
そう。ジュースを飲むためだけにとまったはずが、とんだ長居をしてしまったのだ。
「あ〜〜〜〜!!おい、スピアランス!!はやくいくぞ!」
「うぉ!まてバカ!」
3人はドタバタしつつ車に乗り込み、急いでラーメン屋へと向かった。