9章 狙われた二人
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オレはそれから、なんとか湖矢をランさんの家に届け、オレ自身は高校に向かっていた。方向音痴のオレだけど、人間その気になれば
どうにかなってしまうもので、湖矢をどうしても助けたいという思いから、オレはランさんの家につくことができた。ランさんの話だと、
なんとかランさんの力で直せるということなので、オレはひとまずホッとして、ほかにもたくさんある自転車の一つに乗って、
向かっているのだった。
十数分後、今度はちゃんとランさんに道を聞いてから来たので、とりあえず迷うことなく高校につくことが出来た。
ちなみに高校には、オレは、急に倒れた湖矢を家まで送るため少し遅れる、という内容の電話をランさんがしてくれたので、
オレは怒られることはなさそうだし、湖矢の欠席の理由もつく。今湖矢は、リノファさん達の教会に住んでいるから、そのあたりの
都合あわせも楽そうだ。
「あ、倉地」
オレが駐輪場で自転車を止めていると、ふいに後ろから、そうオレを呼ぶ声がした。
「お、賀沼だ」
オレが振り返ると、オレのクラスメイトの、賀沼直人がいて、オレと同じように駐輪場に自転車を止めていた。
「お前も遅刻か〜。アホやな〜」
そして、オレも賀沼も自転車を止め、昇降口に向かって二人で歩き出すと、賀沼がそうニヤニヤしながら言った。オレは、”お前も”
ってことは、賀沼もそうなのか、と思いながらも、それには触れず、別のところをツッコむ。
「っていうかさ、賀沼、その”アホやな〜”とか、中途半端な関西弁みたいなのやめたほうがいいよ」
「ん? ええやんか」
賀沼は、いつも妙なものにハマっていて、少し前は、”全てのガムを食べつくす”とか、”シャーペンの道を極める”とか
言ってたけど、最近は、
「俺関西弁にハマってるんやから〜」
だそうで、とにかくいつも中途半端で、妙な発音の関西弁を使っている。
「まぁいいや。それより、急がなくていいの? 遅刻するっていう連絡、高校にしたの?」
「うっわ、やっべ!」
オレは、半ば呆れてそう言うと、賀沼はそう叫んで、ダッと走り出した。とりあえず、オレも続く。
まあ、ガムもシャーペンも、一ヶ月もたなかったし、今回もすぐに、飽きるんだと思うけど。
「おそよー、拓斗」
オレがクラスに着くと、ちょうど一時間目が終ったところらしく、オレがクラスに入ってきたのに気付いた秀也が、”おはよう”の
時間が少し遅くなったバージョンを言いながら近づいてきた。ちなみに賀沼は、オレと違って高校に連絡してなかったから、職員室
に行っている。
「おそよ、秀也」
オレもそれを返しながら、少し声をひそめ、
「ねぇ、湖矢がちょっとまずいことになってるよ」
と言った。
「ああ、さっきセンセが言ってたな。急に倒れたんだって?」
「いや、実はそうじゃなくて……」
ランさんが高校に電話をしたときは、やっぱり魔法のことには触れずに話したらしく、秀也が知っていたのは、本当のこととは
違っていた。
オレは、前にリンさんやレイさんが、”魔法を隠す必要はない”みたいなことを言っていたのをふと思い出して、少しおかしいな、
と感じたけど、今は湖矢のことのほうが大事だから、さっき起こったことを、秀也に話すことにした。
「そうか、そんなことがあったのか……」
話を終えると、秀也が考え深げにそう言う。
「まあなんにせよ、あいつは無事なんだな? それと、拓斗も無事でよかった」
そして、続けてそう言った。
「まあ、そうなんだけどさ、なんていうか……」
でもオレは、なんとなくそれだけではいけないような気がして、そう言葉を濁す。
そんなオレの気持ちを察したのかは分からないけど、秀也がわざと明るく、こう言う。
「いいじゃねーか! 無事だったんだから!! それにランさんもいるんだろ? リンもそれなりの魔女なんだし、あ、そうだ、いっそ
レイさんとリンを仲直りさせて、そうすれば恐いものなしだぜ?!」
でも、その言葉が、逆にオレに重くのしかかったのは、言うまでもない。レイさん、いったい何を考えているんだよ……。
「ん……そうだね……。あ、そうだ、リノファさんだよ。リノファさんに占ってもらえばいいかも」
「ん……? ああ、それもいいかもな」
あからさまに、レイさんの話からそらしたオレを、怪訝に思ったのか、秀也は一瞬言葉につまったようだけど、
「じゃー放課後、教会行くかぁ!」
と、また明るくそう言ってくれた。ありがとう、秀也。
その時、チャイムがなって、それとほぼ同時に先生が入ってきたから、とりあえず、おひらきとした。