9章 狙われた二人

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 オレは、お面の男が一歩一歩近づいてくる足音を聞き、もう終りだ、と思うしかなかった。今まで何度かピンチはあったけど、 どれも偶然そこにいたランさん達に助けてもらっていた。でも、偶然はそう起こるもんじゃない。
「悪く思うなよ。派閥の任務は絶対なんや」
 派閥……そういえば、あっち派だのなんだのって話があったっけ。結局誰にも聞けず終まいだったな。リンさんに聞いとけばよかった。 迫り来る男を感じつつ、オレは、男のいったその言葉に、そんなことを考えてしまう。でも、リンさんのことを考えたそのとき、 思い出した。
 前にリンさんに言われたこと、”あたしはキミを、サイキョーの魔人にするからね”。それを思い出したオレは、リンさんのため にも、ここでやられるわけにはいかないと思った。
 オレは、意をけっして、閉じた目を、恐る恐る開けた。見ると、男はいかにも余裕綽々といったかんじで、あくびなどして、 こちらに近づいてきていた。オレは、しかけるのは、男がオレはビビって動けないと思っている今しかないと思った。レイさんのことで、 ボーッとしていたせいで、ペンダントは一昨日からつけたままだ。
 まず、始めに使う魔法はこれだ。というか、これを使うしかない。オレは、まだ少しビビりつつも、手を小さく、パンと叩く。 とたんに、周りの景色、そして、男の動きが停止する。もちろん、本当には停止していないけど。使った魔法は、覚えたばかりの 能力向上魔法だ。今回も成功でき、オレはホッとしつつも、まずは男の後ろに回りこむ。だけど、問題はこれからだった。
 オレが使える魔法は、今使っている能力向上魔法と、たいして威力のない水だけだ。とてもじゃないけど、男にダメージを 与えられるとは思えない。
 そんな時、横でバッタリと倒れ、ピクリとも動かない湖矢が目に入る。早くしないと湖矢が……。そんなとき、初めて湖矢も 子だと知ったあの日、爆発事件が起きたあの日のことを思い出した。
 そうだ、爆発だ。
 今まで爆発系の魔法を見たのは、その日のこともいれて三回。オレは、それらのこと全てを思い出し、どうイメージすればうまく いくか、必死で考えた。あの日のように、失敗するわけにはいかない。
 オレは、能力向上魔法を解いた。オレ程度の実力では、魔法の協発なんてとてもじゃないけどできないからだ。
「何?!」
 お面の男は、急にオレが視界から消えて驚いたらしく、そう言って左右を見渡す。オレの魔法って、そんなにすごいのか、などと 考えてしまったけど、すぐに気を取り直す。チャンスは今しかないのだ。
「いっけぇぇぇぇ〜〜!!」

 オレはそう叫ぶと、気合もろとも、手を大きく叩いた。
「うぐ?!」
 次の瞬間、男のいたあたりを中心に、爆音とともに、爆発が起こった。
 前、レイさんが使ったんだと思うあの魔法にはとうてい及ばないけど、今はこれで十分だ。
 オレは、このままおしまくって、男を倒そうとも考えたけど、さっきまでの男が使っていた魔法のレベルを考えると、どう考えても オレが太刀打ちできる相手じゃない。だからオレは、爆音の影響でもうもうと爆煙が立ちこめる今こそ、逃げるべきだと思い、 また能力向上魔法を使った。もし男が、魔法でオレより速く動けたとしても、これならなんとかなるはずだ。
 オレは、すぐさま倒れている湖矢をかかえ、一目散に公園をあとにした。その時は夢中で、自転車のことなんてすっかり 忘れていた。

「はぁ、はぁ……。ここまでくれば大丈夫かな……?」
 オレは、相変わらず道は分からなかったけど、とにかく走りまわって、さっきの公園から、たぶんかなり離れた場所に来ていた。
 オレは、全力疾走して、魔法を使い、さらにはずっと湖矢をかついでいたので、もうヘトヘトだった。地面にペタンと座りこんで 辺りを見渡すと、とりあえずさっきの男はいないようで、どうやら助かったみたいだ。
 オレは、ホッとして、フゥとため息をつくと、一気に全身の力が抜けた気がした。
 結局、あの男、何者だったんだろう。もしかして、レイさんの仲間とか……? オレは考えたけど、答えなんて見つかるはずもなく、 堂々巡りをするだけだった。


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