9章 狙われた二人
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「大丈夫か、湖矢……?」
オレは、倒れている湖矢を、公園にあったベンチに横にして寝かせ、オレは、その横にあったベンチに座った。
公園には、さっきの雷、たぶん魔法を使った人がいるかもしれないけど、オレが少し様子を見たかぎり、それらしき人どころか、
こんな朝早くの公園には、誰一人としていなかったので、そうすることにした。
オレがそう言って湖矢に声をかけても、反応はない。
「はぁ……こりゃ完全に遅刻だなぁ」
オレは、レイさんのことから少し離れて、とりあえず湖矢を移動させることができたので、なんとなく落ち着いて、ふと、
そんなことをもらしてしまう。
「ん……」
そんなとき、湖矢がようやく気が付いたのか、そう小さく呻き声をあげた。オレは、そんな湖矢に気付いて、
「おい、湖矢! 大丈夫か?!」
と、さっき声をかけたときより、よりいっそう大きな声でそう言った。
「ん……く……倉地か……」
湖矢は、オレの呼びかけに、今度は反応し、かすかに目をあけて、かすれた声えそう言った。いつもは仲があんまりよくない
湖矢だけど、こういうときは人間誰でも嬉しいもので、オレも人間なわけで、目を覚ました湖矢を見て、オレは少なからず嬉しさを
覚えていた。でも、
「に、逃げろ、倉地っ!」
急に湖矢は目を見開き、オレにそう鋭く叫んだ。
「え?」
突然のことに、オレはそう言うことしかできなかった。
次の瞬間、オレの目の前にいたはずの湖矢が、一瞬にして遠ざかっていった。でも、それはすぐに違うと気付いた。遠ざかっていたのは
、オレだった。オレは、たぶん魔法によって吹き飛ばされたのだ。オレがそう理解したときには、オレは公園と道の仕切りの、フェンス
に強く叩きつけられていた。オレの体全身に、耐えがたい痛みが走る。
「うぐ……」
オレは、そのまま地面に倒れこんで、呻き声をあげることしかできない。口に、じゃりじゃりとした砂が入ってきたけど、吐き出し
たりすることはできない。体には、まだ激痛が残っているからだ。
「ったく。なんで俺がこんな雑魚を殺さなあかんのだろ。あの方も人使いが荒いな」
そんな時、少し離れたところから、そんな声が聞こえてきた。オレは、やばい、と思う。その言葉から、間違いなくその声の主は、
オレを吹き飛ばした奴だと分かったからだ。
「おい、もう死んだか?」
その声の主は、はき捨てるようにそう言いながら、オレに近づいてくる。オレは、恐怖しつつも顔をあげ、その声の主を確認
しようとする。
その声の主は、”俺”と言っていたし、声から男ということは分かる。でも、目でそれを確認することはできなかった。
なぜなら、その男は、仮面を、というよりもお面をつけているからだ。そのお面は、なにかのテレビのヒーローをモデルにした、
縁日などでよく売られているもののようだ。
オレは、恐怖こそあるものの、そんなヘンテコなお面を見て、あっけにとられてしまう。
「チッ、まだ生きてんか。しょうがない、じゃあもう一発……」
だけど、その言葉に、あっけにとられた気分など瞬時に消え、全身を恐怖だけが支配してしまう。オレは、その恐怖のせいで身動きが
できない。
「逃げろっつってんだろ、アホがー!」
その時、さっきまでオレがいたベンチのほうから、湖矢の叫び声が聞こえてきた。そして、それとほとんど同時に手を叩く音が聞こえ、
三本の火柱が、お面の男を中心にして、三角形を描くようにして現われた。
「死に損ないが! 黙って見てりゃーえーものを」
火柱に囲まれたその男を見て、オレはチャンスだと思った。この隙になんらかの応戦が可能だと思ったからだ。でも、それをすることが
できなかった。
男は、余裕の表情でそう言って、右手の親指と中指をこすり合わせ、パチンと音を出した。すると、その男の周りに、半円球状の
青い膜のようなものが現われ、そしてはじけ、一瞬にして湖矢のくり出した火柱をかき消してしまった。
そして、もう一度指をならす。そうすると、一瞬空が金色に光って、一筋の稲妻が現われ、湖矢を目指し、
光の筋となって、次の瞬間、湖矢を突き刺した。湖矢は、声を発することなく、その場にバッタリと倒れこんでしまった。
オレは、いよいよ恐怖がピークになったのを感じた。全身は、これでもかというほどの汗で、ビショビショになってしまっていた。
「……さて、次はお前の番や」
オレは、思わず目をグッと閉じてしまった。