9章 狙われた二人

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 日曜日。
 拓斗とリンは、ランの家へと来ていた。
「もう、なんでランなんかの家にっ!」
「しょうがありませんわ。拓斗さんの護衛のためです」
 リンが不満を思いきり顔に出し、そう言うと、ランもまた同じようにしてそう言った。拓斗は、何も言わずに下を向いている。
 拓斗達がランの家に来たのは、ランの言葉どうり、拓斗を守るためである。その原因は、もちろん昨日の一件である。だが、実は こういったことは珍しくない。前にリンが”子どうしの潰し合いがある”と言っていたことからも分かるように、割と頻繁に起こりえる ことなのだ。本来はこういった場合、子を育てる魔の者が、その子を守るべきで、リンもそう主張したのだが、ランが強情に拓斗は 自分が守ると言ってきたために、リンは不本意ながら、こうしてランの家に来たのだった。
 そしてこれから、拓斗とリンは、このランの家に住むことになった。
「にしても、ちょっと意外だな〜。ランの実家ってものすごくお金持ちなんでしょ? なんでこんなに小さいマンションに?」
 リンは、部屋の中をグルリと見渡してそう言った。部屋の中は、質素なもので、生活する上で必要と思われるもの以外は ほとんどない。ただ一つ目につくものといえば、半開きのクローゼットからのぞく、ランのいつも着ているような派手な服くらいな ものだ。
「わたしく、基本的に贅沢というものが嫌いなのですわ。なぜか分かりませんが、物心ついたときには、こういった生活に あこがれていたのです。お父様を説得するのは大変でしたが、なんとか今の状態にすることができました。ただ一つ条件があって、 格好だけはしっかりしなさい、ということなので、一週間に一回、こんな派手な服が送られてくるのですわ。正直な話、こんな服や 扇子を身につけているのは嫌なのですが、条件なのでしかたありませんわ」
「へ、へぇ……そうなんだ」
 ランは、さらりとそう言ったが、リンはかなり驚いているようだ。
「リンさんはそこの部屋、拓斗さんは奥の部屋を使ってください。いちおう敷布団はありますが、もしベッドがよろしいのであれば、 わたくしに言ってください。すぐに用意しますわ」
「え、う、うん……ありがと……」
 ランは、それぞれの部屋を指差しつつそう言った。
リンは、狐につままれたような顔してそう言う。恐らく、今までの印象から、 ランはもっと高飛車で、ワガママな性格をしていると思っていたが、少し違う、とでも思ったのであろう。
 リンはとりあえず、拓斗の家から持ってきた自分の着替えなどを、ランに言われた部屋に置く。拓斗もそれにならい、同じく持ってきた 荷物を置いた。
「拓斗さん、どうかしたんですか? さきほどから元気がないように見えるのですが……。なにか心配事でもあるんですか?」
 ランは、荷物を置き、戻ってきた拓斗に、そう問う。どうやらそのことはリンも気になっていたらしく、
「あたしも思ってた。昨日家に帰った辺りから、ずっと元気がなかったきがするし」
 と、拓斗の顔色をうかがうようにしてそう言った。
 拓斗は、一瞬困ったかのような顔をしたが、
「ん……と、あの、学校行くとき、どうしたらいいのかなぁ……とか思って」
 と、少したどたどしくそう言った。
 もちろん拓斗は、そんなことが理由で元気がないのではない。昨日のレイとの、あの一件が原因である。
 ランは、そんな拓斗に違和感を覚えたのか、しばらく拓斗の顔を見ていたが、
「……そうですか。ここからでは少し徒歩だと苦しいですね。そうですわ、あとで自転車を用意いたしますので、それをお使い 下さい」
 と、笑顔で言った。

 次の日。
 拓斗は学校がある故、早々にランの用意した朝食をすませ、玄関の前にいた。だが、拓斗はそこで呆然と立っていた。
「あ、あの、ランさん、これはいったい……」
「拓斗さんの趣味が分かりませんでしたので、とりあえず用意できるだけ用意してみましたわ。もしこの中でお気に召すものがありません でしたら、また明日、新しいものを用意いたしますわ」
 拓斗が呆然と立っていたのは、そこに並べられた自転車の数々が原因だった。そこには、マウンテンバイクから、”ママチャリ”と 呼ばれるようなものまで、ありとあらゆる種類のものが並んでいる。
 ランは、口では”贅沢は嫌い”と言っているものの、やはり、金持ちの家に生まれてしまった以上、金持ちとしての物の扱い方が 抜けていないようである。
 拓斗はとりあえず、一般的に学生が通学に用いるような自転車に乗り、ラン宅をあとにした。

 いきなりだが、拓斗は道に迷ってしまっていた。一昨日同様、また慣れない土地のせいなのだが、拓斗は典型的な方向音痴らしい。 だが、今回はそれだけのために道に迷ってしまったのではない。やはり、どうしてもレイとのあの一件を考えてしまうのだ。拓斗は、 そのことをボーッと考えながら走っていた故、いつのまにか道に迷ってしまったのである。
(まさか……レイさんが……オレを……。まさか……レイさんが……オレを……)
 拓斗の頭の中では、そう同じことがグルグルと渦巻いていた。そして、このことを誰かに話すべきか否か、ということも迷っていた。 もはや、学校に間に合うか否か、などということは拓斗の頭にはなかった。
 拓斗はそのまま、公園のような施設がある辺りまできていた。その公園は、すべり台やブランコなどがあり、まさに公園といった かんじだ。
 と、
「ん?」
 ふいに、空が黄金色に光った。拓斗は、思わず空を見上げる。
 刹那。
 辺りに雷鳴が轟き、さきほど黄金色に光った空が、さらに光ったかと思うと、まばゆい閃光とともに、一筋の光が、勢いよく公園の すべり台を突き刺した。拓斗は、一瞬それはなんだかわからなかったが、すぐにそれは落雷だと気付く。
 そして、それとほぼ同時に、公園の入り口から、人が一人出てきた。いや、”出てきた”という表現は正しくない。それは、公園内から 吹っ飛んできた、そう、まさにその表現が正しい。その人は、そのまま拓斗の運転する自転車の前まで飛んできて、倒れたまま停止した。
 拓斗は、驚きつつも慌てて自転車から降り、その倒れた人に駆け寄る。
「……! 湖矢?!」
 そこに倒れていたのは、裕務だった。  


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