8章 ターゲットは
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土曜日。
拓斗とリンは、あの市民公園に向かっていた。
拓斗は部活があったのだが、
「よし、今日こそちゃんと拓斗くんの魔法の練習をやらなきゃね」
と、リンが意気揚揚と言うため、拓斗はそれを休みざるをえなかった。
「あ、ねえリンさん、魔人育成の儀の試験っていつ?」
拓斗は、いまさらながらリンに問う。
「んーと……三週間……三週間後の日曜日かな」
リンは、あっけらかんとそう言った。
だが、拓斗は、
「え……ええ?! もうそんだけしかないの?! オレまで水くらいしかロクに使えないんだけど……」
と、そのリンの言葉に驚きつつ、肩を落としてそう言った。
「んー、けっこう普通だと思うよ。たいていの子は魔集会が行われるちょっと前……つまり魔人育成の儀の試験の一ヶ月ちょっと前に
捕まえるのが普通だから、キミ以外の子も同じようなもんだよ。たまに秀也くんみたいな、魔集会が終わったあとに子になるかわった
人もいるんだけどね」
「へぇ……そうなんだ」
拓斗はそう言って納得したように見せたものの、不安を覚えずにはいられなかった。
「ま、またかよぉ……」
拓斗とリンは、数分前に市民公園についていた。だがリンは、拓斗のそばにはおらず、拓斗はため息まじりでそう言った。それというの
も、市民公園に到着した直後、リンはまたしてもあの女と出会ってしまったのだ。
「もう、ラン! なんでいつもあたしの行くとこにいるわけ?!」
「それはこっちのセリフですわ! それにわたくしは特級魔人として、ここにいる魔の者達の安全を確保する責務があるんです。
フォルテさんとピアさんもどこかにいるはずですわ」
「あたしだって子を育てるために来てるんだもん!」
「そんなこと百も承知ですわ。もういいです、あなたと話していると、わたくしまで言葉遣いが汚くなりますわ」
「な、特級魔人だからって調子に乗らないでよ!」
あの女とは、もちろんランのことである。ランはあいかわらず派手な格好で、手にはいつもの紫色の扇子を持っている。
リンとランは、またいつものように口ゲンカを始めてしまっていた。
(こ、これじゃあいつかの二の舞だよ……。よし……!)
拓斗は、前にここに魔法の練習のために来たときのことを思いだし、今日こそはちゃんと練習しなくては、と思い、
「リンさん! もうそこらへんにしてよ!」
と、口ゲンカする二人に向かって叫んだ。だが、二人の声は大きく、まるで拓斗のその声は耳に入っていないようで、全く反応
する様子がない。
(こ、こうなったら……!)
そこで拓斗は、魔法で二人を止めることにした。使う魔法は、もちろん水である。
拓斗は、前とは違い、ペンダントを付けっぱなしにしていないので、上着のポケットからペンダントを取り出し、首からさげた。
そして、
「いっけ〜!!」
気合もろとも、両手をパンと叩き、魔法を使用した。
「きゃあ!」
「ん……!」
水を頭からかぶったリンとランは、さすがに口ゲンカをやめ、拓斗の方を向いた。
「もう拓斗く〜ん! 服グショグショだよ〜」
リンは、ずぶ濡れになった自分の服を見ながらそう言った。表情から、少し怒っていることがうかがえる。
「……あら? あなたはたしか、この前の爆発魔法の?」
一方ランは、水を頭からかぶったように見えたが、その瞬間にシールド系の魔法を使ったらしく、全く濡れておらず、拓斗を見て、
ふと思い出したようにそう言った。
その言葉に、拓斗も思いだし、
「あ、この前はありがとうございました。あの時のことはフォルテから聞いてます。あ……そういえば会うの初めてでしたよね。
オレはくら……拓斗です。リンさんの子です。初めまして」
と、前の爆発事件のことの礼を言いつつ、魔の者の礼をしてそう言った。
「初めまして、リンさんから聞いているかとは思いますが、わたくしは雨宮ランです。よろしくおねがいしますわ。まさかあなたが
リンさんの子だったとは……驚きですわ。それより……」
そしてランも、礼を返してそう言った。だが、言葉の最後にセンスをひらきつつ、少しニヤニヤしながら、
「わたくしはあなたに興味が出ましたわ。まだ子なのに、あの爆発を起こすほどの魔力……興味深いですわ!」
と、言った。
拓斗は、そんなランの言葉を聞き、少し背筋がゾクゾクするのであった。