7章 新入居です!

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「昨日公園で話したとき、お母さんの話したじゃない? それで、ちょっと思い出しちゃったことがあったんだぁ……。レイちゃん のことは……なんとなく心の整理ができた……と思う。でも、お母さんの方は、三年たった今でも、ちょっと……」
 リンは、おし入れの中で、うつむいたままそう言った。拓斗は、そのおし入れの扉によりかかるようにして座った。
「今となってはどうでもいいけど、レイちゃんと仲直りしたのも、その三年前の事件の時なんだけどね……」
 拓斗は、暗闇の中わずかに見えるリンを見つつ、考え深げに話を聞き始める。
「前チラっと、十年前までは魔界があった、みたいなこと言ったよね?」
「魔集会の時、聞いた覚えがあるよ」
 拓斗は、その時のことを思い出しながらそう言う。
「じゃあ今は魔界に行けないってことも言ったよね。あのね、魔人育成の儀が行われた次の年に、”魔界奪還の戦”っていうの があるんだ」
 魔界奪還の戦。
 それは、十年前にある者達に奪われた魔界を、特級魔人を中心にチームを編成し、魔界を奪還しに行くというものだ。
 そのチームとは、特級魔人四人をはじめとし、上級魔人の半数、そしてその一年前に行われた魔人育成の儀で、優秀な成績を おさめたその時の子と、それを育てた魔の者によって編成される。
 魔界を奪ったある者とは、詳細は誰にも分からないのだが、魔の者達は、その者達を俗に”裏魔人派”と呼んでいた。
「あたしは、そのチームに選ばれた。もちろん、レイちゃんも」
「その時の特級魔人って、誰? 今と同じ?」
 拓斗は、その話の中で気になったことを問う。
「……魔人奪還の戦ってね、毎回……といってもまだ二回しかやられてないんだけど、たくさんの死傷者が出るんだ。 だから三年前のそれも、死傷者がたくさん出た。で、その時の特級魔人は、今の魔帝のシュラ様、今も特級魔人のフォルテさん、 知らないと思うけどライトさん、そして、その時の魔帝は、アスナ……あたしのお母さん」
「え……!」
 拓斗は、そのリンの解答の、もちろんたくさんの死傷者が出るということにも驚いたが、それ以上に、リンの母親であるアスナが 魔帝だったということに驚いていた。
「……じゃあなんで今はアスナさんが魔帝じゃないの? あと、ライトさんって人も」
 拓斗は、また気になったことを問う。だが、すぐにハッとなり、しまった、と思った。さきほどのリンの話の前半部分を考えると、 その答えは一つしかないと気付いたからだ。
「ライトさんとお母さんは……亡くなっちゃった。しかも……しかもお母さんはあたしのせいで……!」
 拓斗の予想はあたっていた。アスナもライトも死んでいたのだ。しかもリンは、アスナは自分のせいで死んだと言う。 拓斗は、”なぜ?”と問いたかったのだが、きっと問わずともリンはそれを言うだろうと思ったし、 何よりそれは、聞いてはいけないことだと思い、その言葉に驚きつつも、黙っていた。
「あたし、あの頃調子乗っててさ。魔人育成の儀でいい成績だったから」
 リンの声はだんだんと小さくなっていた。
「あたしは、自分は最強の魔女だと思いこんでた。バカだよね、ホント……。魔界奪還の戦で、本当に強い敵が現われて、もうどうしよ うもないってとき、あたしは前に出て、”禁術”って呼ばれる魔法を使おうとしたんだ。あ、禁術っての説明はまた今度ね」
 拓斗は、真摯な態度でその話を聞いていた。だが拓斗は、そのリンの話の中で、少し矛盾があると思った。しかし、そのことは またあとで聞こうと思い、そのままリンの話を聞く。
「禁術はね、ほかの魔法と違って、アリアが必要なんだ。あ、アリアっていうのは魔法詠唱のことね。そのアリアがやたら長くてさ、 あたし前に出てアリアをはじめたものの、なかなか魔法が発動できなくて……敵が先に魔法を発動させて、あたしに迫ってきて…… もうダメだって思った。そしたら、あたしは気絶しちゃって、何が起こったのか分からなかった」
 リンは、声はまだ小さいのだが、だんだんとその言葉に力が入っていった。
「これはあとで聞いた話。あのあと、あたしに魔法が直撃する直前、お母さんが体を盾にしてあたしを守って……! そのあと、 編成されたチームは逃げた。あたしをかついで。お母さんは一人……そこに残されて……」
 リンは、それ以上のことは言わなかった。拓斗も、それ以上のことは問わなかった。
 そしてリンは、少し間をおき、また話始める。
「あたしはすごく落ち込んで、何日かずっと泣いてた。そんな時、レイちゃんが”私はアスナさんのかわりにはなれない。けど、私は リンが元気になるように何でもする!”って……。今考えると、よくそんな言葉で、って思ったけど、あのときは、 なんか元気になったなぁ……」
 リンは、いつのまにか顔をあげ、遠くを見る目になっていた。
 そんなリンを見て拓斗は、なんとかしなくては、と思った。そして、なんとなく、そんなリンを、父親を亡くした自分にかさねあわせていた。
「……あのさ、リンさん、オレを、強い魔人にして! 親を亡くすっていうつらい気持ちは、オレにも分かるんだ。オレもたまに 思い出して、悲しくなるときあるけど、そんな時は、ほかのことに集中して、そんな気を紛らわすんだ。だから、オレを徹底的に 育ててよ! ……ああ、もう、何言ってんだ、オレ……」
 拓斗は、力強く、大きな声でそう言った。リンは、そんな拓斗の唐突な行動と、その話の内容に驚いたのか、目をパチクリさせていた が、急にプッと吹き出して、
「もう、やっぱ拓斗くんは拓斗くんだなぁ! よし、分かったよ、あたしは、キミをサイキョーの魔人にするからねっ!」
 と、力強く言った。恐らく、乱暴で強引な言葉だったが、その中に隠れた拓斗の優しさに気付き、それにのったのであろう。
 二人は、いつのまにか笑顔になっていた。さきほどまでの暗い表情を闇とするならば、その笑顔は、まばゆいばかりの、光 だった。


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