7章 新入居です!

     3


「ただいまー」
「おかえりー、拓斗くん」
 拓斗が学校から帰ると、二階の窓から下校する拓斗を確認したらしく、玄関でリンが迎えてくれた。
 拓斗は部活があったのだが、秀也から預かった荷物のこともあったし、何よりなんとかしてリンを元気付け、レイと仲直り させるために、リンと話をしたかったので、さぼっていた。
「昼飯食べた?」
「うん、レトルトカレーがあったからそれを。いちおうコンビニのゴミ箱に捨ててきたよ。拓斗くんが食べてないのにそんなのが あったら変だと思ったから。それより、そのおっきな袋、何?」
 リンは、拓斗が抱えている袋が気になり、そう問う。
「ん? ああ、これね。リンさんの着替えとかサイフとかが入ってるらしいよ。……レイさんが、渡してくれって」
「……!」
 拓斗がその袋をリンに渡しながらそう言うと、リンは一瞬驚いたような顔をした。だが、
「……こんなことして機嫌とろうとしたってムダだもん。っていうか、人を殺そうとしといて、こんなことで許されると思っている のがおかしいよ!」
「そ、そんなんじゃないと思うけど……」
 少し怒った顔をし、強い口調でそう言った。拓斗は、そんなリンに困惑しつつ、少しでもリンをなだめようとそう言った。
「っとゴメンね。キミが悪いわけじゃないもんね。さてと、せっかく着替えあるなら、拓斗くんのお母さんが帰ってくる前に お風呂入ろっかな。昨日入ってないし。いい? 拓斗くん」
 リンは、そんな拓斗の気持ちを察したのかは分からないが、そう話題をかえた。
「え、あ、うん……いいよ。オレもあとで入ろっと」
 拓斗は、本当はリンと話したかったのだが、いざとなると何をどう話せばいいか分からなかったし、リンは何かを言い出すと聞かない 性格だということが分かっていたので、拓斗はそう言ってうなずくしかなかった。

 リンと拓斗が風呂を終えてしばらくすると、拓斗の母親が帰ってきた。そのとき二人は二階の拓斗の部屋にいたため、リンが母親 に見つかることはなかった。
「母さん仕事のときはたいていコンビニ弁当買ってくるから、さっさと食ってくるね。リンさんは悪いけど、何か買いにいくか、 食べにいくかしといてね」
「おっけー、わかった。じゃあ早速行ってくるね」
 リンはそう言うと、窓を開け、外に飛び降りた。といっても、そのまま空中浮遊の魔法を使っているため、浮いているのだが。
 拓斗はそんなリンを見送ると、夕飯を食べるために、一階に降りていった。
「母さんおかえり」
「ただいま」
 拓斗が一階におり、リビングに行くと、案の定拓斗の母親は外で何か買ってきたらしく、テーブルにそれらが並べられていた。だが それは、コンビニ弁当などではなかった。
「ん、寿司? 珍しいね。今日なんかあったっけ?」
 そこに並べられているのは、拓斗の言葉通り寿司だった。しかもそれは、コンビニで売られているような安いものではなく、しっかりと した寿司だけを扱う店で買われた、それなりに高価なものだと見て取れる。そして、それは三人前あった。
「お父さん……お寿司好きだったから」
「あ……」
 拓斗は、母親のその言葉を聞き、ハッとなって思い出す。
 今日は、拓斗の父親の命日だった。拓斗の父親は、四年前に死んでいる。その頃まだ中学一年であった拓斗には、ショックが 大きすぎる出来事だった。だが拓斗は、父親がまだ生きている気がしてならなかった。なぜなら、なぜか父親の遺体がないし、 拓斗の父親は、車で峠を走るのが趣味で、その車の運転中の事故で死んだのだが、それを調べた警察や、父親の走り仲間の人達の話に、 少なからず違和感を覚えたからだ。そして、そんな思いを、拓斗は今も持っていた。だがもちろん、そんなことをほかの誰かに言える はずもなく、ただ一人でそう考え、いつか父親を見つけてやる、と、密かに思っていた。
 その後拓斗と拓斗の母親は、その寿司を食べ、そして残った一人前を、仏壇に奉った。

 拓斗は、今日はもう早く眠ることにした。リンのことや、自分の父親のこと、拓斗の頭の中はもう一杯であった。リンはリンで、 拓斗が食事を終え、二階に上がってきた頃には、もうおし入れの中にいた。
「もう、分からん!」
 拓斗はそう言って部屋の電気を消し、ベッドにもぐりこもうとした。その時、
「あ……」
 拓斗は、昨日と同じ、リンの泣き声を聞いた。拓斗は、昨日同様、少し気がひける思いと、今はそっとしておいたほうがいいという 思いもあったが、さきほどの秀也の言葉を思い出し、リンと話すのは今しかない、と思えた。それ故に拓斗は、ゆっくりとリンのいるおし入れに近づき、そのおし入れを軽くノックしたあと、そっとその扉を開けた。
「リン……さん……?」
「なぁに、拓斗くん?」
 拓斗がそう言うと、リンはいつもの調子で答えたが、その声はどこか弱々しく、自分の顔を見られたくないのか、下を向いていた。
「あの……少し、話、しない……?」
 拓斗のその言葉に、リンは少しとまどったような表情を浮かべたが、顔はあいかわらず下を向いたままだ。 だが、拓斗はあきらめず、
「ちょっとでも話せば、楽になるかもよ……?」
 と、優しい口調で言った。
 そして、そんな拓斗に、リンは反応した。まだ下を向いたままだが、無言で、コクン、とうなずいた。そして、
「……昨日、公園で言いかけたこと、話すよ……三年前の話を」
 と、小さな声で言った。
 拓斗は、無言でうなずいた。


 TOP 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送