6章 過去の事実

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 拓斗は迷っていた。リンの後を追うか、レイと話をするか。はじめはリンを追おうと思ったのだが、さきほどのレイのことば、 ”死人の分際”、これが気になるために、レイと話をするという選択肢が出てきたのだ。
「拓斗……追わなくていいのかよ?」
「そうだけど……でも……」
 と、秀也が拓斗にそう言った、その時、玄関の扉の向こう側で、何やら人の気配がした。拓斗は、リンが考え直し戻ってきたのだ と思い、
「リンさん!」
 と言って、その扉を勢いよく開けた。
 その途端、なにやら鈍い音がし、拓斗は開けた扉が何かにぶつかる感覚を覚えた。この扉は、外に開く仕組みになっている。
 拓斗は、開けた扉を、おそろおそる手前に戻す。
「あいたたた……。なんや〜、いったい〜」
「リノファさん……」
 そこにいたのは、扉にぶつけたのであろう、おでこをおさえている、リノファだった。
「ご、ごめんなさい……」
「約束通り来たえ〜。ええよ〜、別に。それより、どうかしたん? なんか、元気ないえ?」
 拓斗は一瞬迷ったが、さきほどまでのことを、リノファに話すことにした。

「そうか〜、そんなことがあったんか」
 拓斗が話し終えると、リノファは考え深げにそう言った。
「あの、リノファさん。……オレ、どうしたらいいんでしょう。レイさんから聞いたんですけど、未来予知を使えるんですよね?」
「占い? それはちょうどよかったわぁ。ウチ、お詫びは拓斗くんのこと占ったげようと思ってたんよ。今すぐやったほうがええと 思うから、やるえ。でも、完全に信じちゃダメやよ? あくまで占いやから」
 拓斗は、この選択肢を他人にゆだねていいのか迷ったものの、いつまでも自分だけで考え、答えが出せず、時間だけがすぎて しまっては、それこそいけないと思った故、レイから聞いていた、リノファの未来予知に頼ることにしたのだ。
 リノファは、笑顔でそう言うと、目を閉じ、いつものほんわかとした笑顔を消した。そして、魔の者の礼の姿勢、手を合わせた 状態で停止した。
 次の瞬間拓斗は、そのリノファの合わせた手に、膨大な量の魔力が集まっているのを感じた。まだ未熟すぎる拓斗にも、 はっきりと感じ取れるほどのものだった。
「すっげー魔力……」
 どうやらそれは、秀也も同じように感じ取ったらしく、拓斗の後ろでそうつぶやいた。
 そして、その状態が数十秒続いた後、リノファはゆっくりと、合わせた手をおろし、目をひらいた。そして、またいつもの 笑顔に戻って、
「ふぅ……でたえ」
 と言った。
「どう……なんですか……?」
 拓斗は、おそるおそるそう問う。
「えっとな、こういうかんじや。過去の過ちを悔い、己のしたことが許せぬと思いし者には、冷なる期をおき、今は接してはならぬ。過去の事を許したい と思えど、割り切れない思いを持ち、この場を脱した者には、すぐに接せよ。さもなくばその者、消滅せし……こんなかんじやな」
「え……えと……?」
 拓斗は、リノファのその言葉の意味が理解できず、首をかしげてそう言った。
 すると秀也が、
「簡単に言うとだな、昔の失敗を、今も悔やんでる奴とはまだ話すな。こっから出てった奴とはさっさと話せ。つまり、レイさんとは まだ話さずに、リンとは話せってことだな」
 と、拓斗に解説してくれた。そして、
「……となると、やることは一つだよな、拓斗」
 拓斗の肩を、ポンと叩いてそう言った。
「……ありがとうリノファさん。ありがとう秀也。オレ、行ってくる!」
 拓斗はそう言うと、勢いよく、部屋を飛び出した。

 時刻はすでに七時をまわっている故、日は完全に落ちていた。だが拓斗は、そんなことなど気にならなかった。わき目もふらず、 ただ一心に、リンを探すことだけを考え走っていた。
 拓斗は、一つの場所に向かっていた。その場所とは、市民公園。なぜだか分からないが、そこに行けばリンがいるような気がして ならなかった。
 拓斗は、息が切れても走った。とにかく、走った。
 しばらくし、ようやく市民公園につくと、拓斗は、
「リンさん、リンさーん!」
 と、声のでるかぎり叫んだ。
 休日ならば、魔法の練習をする魔の者や子がいてもおかしくないのだが、今日は平日で、なおかつ夕飯時故、 すでに人気はなく、辺りには拓斗の声だけがむなしく響いていた。
「あ……リンさん……」
 拓斗は、外灯に照らされたベンチに、一人ポツンと、下を向いて、座っているリンを見つけた。
 そして、すぐに駆け寄り、
「リンさん、帰ろう。秀也も、レイさんも心配してるよ?」
 と、わざと明るくそう言った。
「……ペンダント、はずしたほうがいいよ」
 それに対してリンは、いつもの彼女らしくない、小さな声でそう言った。拓斗は、今すぐリンをつれて帰るのは無理だ、と思った。
 それ故、さきほどのリンの言葉で、どうしても気になっていたことを聞くことにした。
「……あの、リンさん。よかったら話して。その、”あたしの二の舞”ってことを」
 拓斗は、リンの隣にゆっくりと座り、そう言った。
「……うん、分かった、話すよ。四年前の魔人育成の儀、あたしがレイちゃんの子だった時に、起こったことを……」
 リンは、あいかわらず、暗く小さい声でそう言った。


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