6章 過去の事実

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 翌日。
 学校帰りで、車の中の拓斗と秀也は、レイに送り迎えされるのもようやく慣れてきて、まだ慣れていないころは、レイの存在故に できなかった雑談をしていた。
「昨日は散々だったな、拓斗」
「だな〜。リンさんとのことを忘れるほどだったよ。あ、そういえば今日リノファさん来るんだっけ。あれ? でもリノファさんって、 オレがどこに住んでるのか知らないよね?」
「そういえばそうだな。あ、でもレイさんの知り合いって言ってたから、レイさんの家、だからオレらが住んでる家に来るんじゃねーか?」
 拓斗の言う、リンとのこととは、例のペンダントのことである。昨日二人は、昼食を食べ、その後遊んで帰ったのだが、そのときは すでにレイも帰宅していたため、昨日も何も起こらずにすんでいた。
「あ、レイさん。リノファさんとは、どういうお知り合いなんですか?」
 レイとリノファが知り合いだと思い出した拓斗は、少し気になり、レイにそう問う。レイは、少し黙っていたが、信号で止まったので 話し出した。
「リノファ……占いシスターか。私が未熟だったころ、いや、今もまだ未熟だが、とにかく少し前まで、私のこれからすべきことを 占ってもらったことがあった」
「占い?」
「……聞いていないか? リノファはほかのどの魔人、シュラ……様にも使えない魔法、未来予知を使うことができる。もっとも、 当の本人にもなぜそれが使えるのか分からないらしいがな。とにかくその未来予知を、周りの皆が、なぜか占いと呼ぶようになった」
 未来予知は、何をイメージし、それを具現化、つまり魔法を発動させればいいか分からないために、どの魔人もそれを使うことが できない。そして、その未来予知とは、実際に未来を見ることができるのではなく、もっと漠然としたものしか見ることができない。
 例えば、転ぶ、という未来があるとする。そのとき未来予知を行うと、その転ぶという事象自体は見えないものの、それを回避する 方法、どの地点で注意すればいいか、などが見える。つまり、良いこと、又は悪いことが未来にある場合、良いことならば、それをのがさないためにすべきこと、悪いことならば、それを 回避するためにすべきこと、が見える、ということである。
 そこまで話したところで、信号が青になったため、レイはまた黙って、車を走らせ始めた。拓斗と秀也も、部活などの疲れからか、 そのまま話さず、車に乗っていることにした。

「ふう、疲れた」
 家につき、拓斗と秀也は、二人の部屋ですぐに着替え、それぞれのベッドに座り、一息ついていた。リンは買い物にでも行っている のか、家にはいなかった。
「なー拓斗、やっぱこの部屋って殺風景だよな〜。ベッドと時計と、オレらの着替えしかねー」
「まぁそれはオレも思ってたけどさ、しょうがないよ」
 二人は、半ば強引にこの家に住まわされているとはいえ、飯なども出してもらっている故、文句を言うことができなかった。
 と、そんな時、リンが帰ってきたのか、部屋の外が急に騒がしくなった。だが、その騒がしさが尋常ではなかった。
 どうやら部屋の外で、リンとレイが話しているようなのだが、とにかくリンの声が大きい。それが気になった拓斗と秀也は、二人とも 部屋から出た。
「フォルテさんから聞いたよ! どういうこと? レイちゃん!」
 そこには、シャワーでも浴びていたのか、髪が濡れ、タオルを手にしているレイと、いつも笑顔のリンが、憤怒の形相で 睨み合い、風呂場の前で言い争いをしていた。
「これじゃあ、あたしの時の二の舞になっちゃうよ!」
 拓斗と秀也は、二人がなんのことで言い争っているのか分からなかったが、とにかく止めに入ろうとする。だが、
「……うるさい。私が何をしようと私の勝手だ」
 二人の勢いに圧され、うまく止めに入ることができない。
「勝手ってなによ! 拓斗くんはあたしの子なんだよ!」
 拓斗は、急に自分の名前が出て驚いたが、今度は決意し、二人の勢いに圧されないように止めに入るため、大声を出そうと大きく息 を吸った、その時、
「死人の分際でうるさいぞ!」
 普段あまり大きい声を出さないレイが、そう大声で怒鳴った。これには、拓斗と秀也も、そしてリンも、思わず口をつぐむ。
「……え……? それって、どういう……」
 リンは、そのレイの言葉を理解しかね、そう問おうとする。
「……今のは聞かなかったことにしろ」
 だがレイはそう言って、自分の部屋に閉じこもってしまった。
 残された三人は、何を話せばいいか分からず、誰も口をひらこうとはしない。
 しばらくの沈黙が続いた後、そんな雰囲気にたまりかね、拓斗が、
「あの……リン……さん?」
 と言って、リンに話しかけようとした。
「拓斗くん」
 だが、逆にリンが拓斗にそう言って、そのまま続ける。
「あたし、この家出る。拓斗くんも、一緒に来て!」
 そしてそう言うと、拓斗の左手をグッとつかみ、そのまま拓斗をひっぱり、その言葉通り、家から出ようとした。だが、
「ちょ、ちょっと待ってよ、リンさん!」
 拓斗はそう言って、リンの手をふりほどいた。
「……そっか。そうだよね……」
 リンは、泣いていた。リンは、くぐもった声でそう言い、一人、走って家から出ていった。
 拓斗は、どうすればいいか分からず、その場に立ちすくんでいた。
 そんな拓斗の隣では、死魔が、寂しげに、鳴いていた。


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