5章 シスターの落し物

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「おいテメェ、そんな部屋ん中の掃除はいいんだよ。こっちをやれ、こっちを」
 拓斗が左側の部屋から出ると、それに気付いたティーファが、拓斗に向かってそう言った。
 拓斗は、
「あ、ごめんなさい」
 といいながら、ティーファに近づいて、
「あの、さっきペンダント渡したじゃないですか? 実はもう一個あったんだけど、渡すの忘れてて」
 と言って、おもむろにズボンのポケットからペンダントを取り出した。
「お、おう、そうだ、二個落としたんだったな。よし、よこせ」
 ティーファはそう言うと、拓斗の差し出したペンダントを取ろうとした。だが拓斗は、ティーファがそのペンダントを掴む 直前、ペンダントを持つ手をひっこめた。
「あれ、ティーファさん。あなたの落としたペンダントってさっき渡した一個だけのはずですよ? このペンダントはオレのです。 それにあのぶつかったとき、あなた京都弁でしたよね〜? なんで今は違うんです? それともさっきはたまたま?」
 そう。
 これがティーファを騙すために、拓斗が考えたことである。
 実に単純で、実に滑稽な嘘だったのだが、拓斗が本当のことに気付くはずがないと思い、こきをつかっていたティーファには、 そんな嘘でも効果は抜群だった。
「な、な、なんでやねん! あたし……ウチだってそんなことわかってたっつの! ぼ、ボケやボケ! オメェの反応見たかった だけや!」
「なんか京都弁って言うより大阪弁だし、さっきまでの口調も混ざってますよ〜」
 あからさまに動揺し、なんだかよく分からないことを言うティーファを、拓斗はそう言ってちゃかす。
 そして、ついにいっぱいいっぱいになってしまったティーファは、
「あ゛〜〜〜!! なんで気付いたんだよオメェ!」
 と、頭を両手で抱えてそう叫んだ。
「あのお面の部屋にいた、カノンに話聞いちゃって。最初にティーファさん、”また客人か”って言ってたけど、それってカノン 達のことだったんですね」
 それに対して拓斗は、いたって冷静にそう言う。
「はぁ、まさかカノンと知り合いだったとは、うかつだったぜ。おーい、ゆーな、バレちまったよ」
 ティーファは軽くため息をつき、イスに座って、秀也と雑談をしていた、裕奈にそう言った。
「あらそ〜。どんまい、ティーファ」
「どんまい……って、ゆーななぁ……」
 実はこのティーファが拓斗達を騙すという作戦は、裕奈が考えたものだったのだが、裕奈はまるで他人事のように、 笑顔を浮かべてそう言った。 はじめに裕奈がティーファにした耳打ちは、この作戦を伝えるものだったのだ。それを考えると、ティーファは思わず苦笑をして、 そう言った。
 拓斗はそんな二人を見て、
(やっぱり悪い人じゃないみたいだな、ティーファさんも裕奈さんも)
 と思っていた。
 と、その時、
「お〜い、帰ったえ〜、ティーファ、ゆーなー」
「姉ちゃんわりー、タイムセールのがしたー」
 と、教会の入り口から声がして、男と女が入ってきた。
「あ、湖矢」
「おー、天野じゃねーかー。ついでに倉地も」
「あ、あなたはさっきぶつかったシスターさん!」
「あや、あんたはさっきの男のコやな〜。ホンマに来てくれはったんか〜。嬉しいな〜」
 その教会に入ってきた二人は、裕務と、正真正銘、さきほど拓斗とぶつかったシスターだった。

「んじゃ、改めて自己紹介するか」
 拓斗と秀也は、裕務とあのシスターの登場に驚いたものの、とりあえず自分達がここにいる理由を説明し、 二人のシスターがそろったということで、ティーファがそう言った。
「オレは倉地拓斗。いちおう魔人見習い……子です。オレを育ててくれる魔女は、海美リンさん」
「オレは天野秀也。同じく子。育てられてる魔の者は、山綺レイ」
 拓斗と秀也は、ティーファとリノファが魔の者だと分かったため、さきほどの自己紹介ではしなかった、魔法に関する話もした。
「ウチは雪村リノファ。名字から分かると思うけど、いちおう上級魔人や。ちなみにウチが姉。秀也くんあのレイの子なんか〜。 いちおう知り合いなんやえ〜」
「名前はいいな。あたしも上級魔人で、リノファの妹だ。あたしらの見分け方は性格だ。言うまでもねーな」
 そしてリノファは笑顔でそう言い、ティーファは腰に手をあててそう言った。
「でも、話さないと、どちらがどちらなのか、分からなくなる時が、ありますよ。拓斗さんと、秀也さんも、 勘違いされていたようですし」
「そうか? ウチら見た目も結構違うんやけどな〜。あ、そや、カノたん、エンジェランはんのつける仮面、決めたか〜?」
 リノファが帰ってきたので、さきほどの部屋から出てきていたカノンがそう言うと、リノファは自分とティーファを見比べ ながらそう言った。
「その、”カノたん”、と言うの、やめてください。少し、恥ずかしいです。決めました。でも、本当にもらってしまって、よろしいのですか?」
「えー、かわえーやんカノたんて〜。うん、もちろん貰ってええよ〜。正直たくさんありすぎて困ってたんえ〜」
 カノンとリノファは、話が弾んでしまい、そのまま二人で会話を続けた。
 ここで拓斗は、ふと思い出したように言う。
「あの、ティーファさん。湖矢の顔見て思い出したんだけど、こっち派だの、あっち派だの、”親”、とかって、何?」
「ん? ああ、あのことか。それはあたしからより、オメェらの親かた聞いたほうがいいぜ。ま、あたしが親って言っちまうのは タブーなんだけど、気にすんな。今はあたしの言ってる意味が分かんねーと思うけど、親から説明聞きゃ分かると思うからよ。 ちなみに親ってのは、オメェらを生んで育てた親じゃねぇ。オメェら子を、育てる魔の者のこった。とにかく、そいつらに聞け。 それと、そろそろ帰れ。なんか疲れた」
 だが、ティーファもフォルテ同様、自分で言うのは拒んだ。
「オレもそれ気になってたんだー。フォルテさんはめんどいとか言って教えてくれんかったからなー」
「オメェはあたしの子なんだから、あとでイヤってほど話てやっから、待っとけ」
 拓斗は、本当は今すぐにでもそのことについて聞きたかったのだが、ティーファにそう言われてはしかたがない、とあきらめる。 だが、その裕務とティーファの会話で、気になることがあった。
「え、湖矢ってティーファさんの子なの?!」
「お前には関係ねーだろー」
「まぁいちおうあたしの子だ。ついでに言っとくと、ゆーなはリノファの子だ。まぁなんだ、とにかく今日は帰れ。またな、二人とも」
 拓斗は、さきほどからティーファが自分達をはやく家に帰したいとでも思っているかのような言葉に、少しひっかかっていたのだが、しかたなく 帰ることにした。
「あ、待ってーなー。お詫びするの忘れとったわ〜。でも今日は無理そうやね……。あ、そや、明日学校やよね?  それ終わったくらいに、ウチがあんたの家行ってもええか〜?」
「あ、たぶんいいッスよ。それじゃ、明日!」
 しかし、拓斗と秀也が教会を出ようとした直前、リノファが拓斗を呼び止め、そう言った。拓斗は、そういえばもともとそのために 来たんだった、と思いながらそう言い、秀也と共に、家路につくのであった。


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