5章 シスターの落し物

     3


「なんでオレらがこんなことを〜〜!!」
 拓斗と秀也は、さきほどの詫びを、ティーファと裕奈からうけていた。そして、その内容とは、なぜか拓斗と秀也が、 教会内の掃除をする、というものだった。
 それというのも、今から数分前、ティーファが二人に言った言葉、
「よし、オメェらにシスターの仕事を体験させたる」
 これが原因である。
 はじめ拓斗と秀也は、いきなりそんなことを言われて、乗り気ではなかった。だが、ティーファと裕奈の、言葉巧みな誘導と、 シスターというものへの少しの興味が、結局拓斗と秀也をその気にさせた。そして、そのシスターの仕事、という大義名分のもとに、二人が仰せ付かったことが、教会内の掃除、というものだったのだ。
「おいオメェら! 掃除だって大事なシスターの仕事の一環だ! きびきび働け〜!!」
(な、なんなんだよその海賊の船長みたいなノリはっ! っていうか、シスターの仕事の一環なら、ティーファさんもやれって!  というか、よく考えたらシスターって男のやるもんじゃないだろ!! それはそうと、あのぶつかったときはティーファさん京都弁 だったのに、今ぜんぜん口調違うよ〜。なんか変だな……)
 拓斗は、そんなティーファの悪態ぶりに、そんなことを考えつつ、ティーファに不信感を抱き始めていた。そして、
(よく考えたら、秀也とシュラ様だってそっくりなわけだし、さっきぶつかった人とティーファさんって別人なのかも……。 よーし、掃除するフリしてあの扉の中で、いろいろ調べてやる〜!)
 と、自分の中で結論を出し、その考え通り、ほうきで床をはきつつ、さきほどティーファと裕奈が出てきた、左側の扉に入った。
 そして、その部屋に入ると、
「う、うわぁっ?! なんだこれ??」
 と、拓斗は思わず大声を出してしまった。
 その部屋は、壁や、本棚の上など至る所に、不気味な仮面が所狭しと並べられていた。その仮面は、ひょっとこのようなものから、 ピエロのようなものまで、様々な種類がある。
「な、なんだお面か……」
 拓斗は、しばらく部屋を見渡し、ようやくどういう状況か認識することができた。
 と、その時突然、
 ガタッ
 仮面が飾ってある棚のせいで、拓斗の位置からは見えない部屋の奥から、そんな物音がした。
「わぁ! ごめんなさいごめんなさいいっ?!」
 拓斗は、そのことになぜかとても驚いてしまい、意味もなくそう謝ってしまう。
「あら……? 拓斗さんではないですか」
 すると、その物音のした辺りから、女と、キツネのように細い目と、ピエロの顔を足したような仮面をかぶった人が現われた。
「あ、カノン!」
 その女のほうは、カノンだった。
「こんなところで、何をしているのですか? 拓斗さん」
「えーと、なんていうか、いろんな成り行きで……。カノンこそ何してるの?」
「私は、私の子である、エンジェランがつける仮面を、この教会のシスターである、仮面を集める趣味を持つ、リノファさんから 貰うために、ここに来たんです」
 拓斗のその問いに、カノンは、いつものように至極ゆっくりとした口調でそう言った。
「へぇ、カノンの子か〜。名前はエンジェランだって? よろしくね、エンジェラン。オレは拓斗、お前と同じ子だよ。でも、なんで 顔隠すの?」
 拓斗がそう言うと、エンジェランは無言で軽く頭をさげたが、話し出そうとはしなかった。
「エンジェランは、とても、恥ずかしがりやで、顔や、声を出すことはおろか、性別さえ、私以外には、言いたくないそうです」
「そ、そうなんだ……。あ、そういえばさっき”この教会のシスターであるリノファさん”って言ったけど、ここのシスターって ティーファさんじゃないの?」
 そんなエンジェランという人物の説明を聞き、拓斗は、変な人だな、と思いつつも、さきほどのカノンの言葉で、もう一つ 気になった人名のことをカノンに問う。
「ティーファさんから、聞いてはいませんか? この教会のシスターは、二人いて、一人は、少し乱暴なところがある、ティーファさん、 そして、もう一人は、ティーファさんの、双子の姉である、京都弁を話す、リノファさんです」
「ふ、双子? 京都弁?!」
 拓斗は、それを聞いて驚きつつも、なるほど、と思う。これで、なぜあのぶつかったときのシスターと、 今この教会にいるシスターの口調や性格が違うのか、説明がつくからである。
「ちなみに、リノファさんの姓は、雪村。ティーファさんの姓は、羅雹。お二人とも、上級魔人です」
「え、ティーファさんって魔女だったんですか! しかも上級!! なるほど、じゃあやっぱり、さっきティーファさんが”他人の そら似”って言ってたのは、秀也がシュラ様に似てるって意味だったんだ! そうか、それであのペンダントを持ってたわけか。よし、そうと分かれば、今度は逆に、ティーファさん を騙してやらないとね」
 拓斗は、これでほかの疑問も解けた、と思った。
「何の、話ですか? 拓斗さん」
 そんな拓斗の様子を見て、怪訝な顔でそうたずねるカノン。
「あ、こっちの話! よ〜し、いくぞ〜!!」
 だが拓斗は、そんなカノンの問いをそう返して、今度は拓斗が、一人ニヤッ、と笑うのであった。


 TOP 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送