5章 シスターの落し物

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「やっぱ教会いかないとダメだよね」
 オレと秀也は、家を出発してから小一時間ほどたつ今も、未だブラブラと辺りを歩いていた。周りには、カラオケや、ゲームセンターとかの施設もあるんだけど、どこにも入る気は起きなかった。その原因は、もちろんあの、教会のシスターみたいな女の人との出会いだ。オレ達は、 その女の人が言う教会に行くか行かないかか、迷っていたんだ。
「まぁ、詫びってことは、何かしてくれるんだろーし、このペンダントのこともあるしな」
 オレのその言葉に、その女の人が落としたんだろうそのペンダントを指でつまみながら、秀也は賛同してくれた。
「あ、そういえば秀也、お前ペンダントつけてないね。レイさんの子だから、オレみたいにつけさせられてるかと思ってたけど」
「ん、まあな。オレは必要ないっていうか……あ、そうだ、オレは練習するときだけしかつけてないんだ。うん、そうだ。まあ、 そんなことより教会だ、きょーかいっ。あ、あそこに十字架が見えるぜ。あそこじゃないか?」
 オレの問いに、秀也はどこか焦ったようにそう言ったけど、少し先に、ほかの店とかの間からわずかに見える、教会のもの と思える十字架を指差して、オレにそう言った。そしてオレは、少し秀也の様子が気になったものの、その十字架を目にして、
「あ、ほんとだ。あ、でもあの大阪弁の女の人、何か用事があったみたいだけど、もういるかな?」
 と、ペンダントの話はやめ、元の話題に戻すことにした。
「大阪弁っつーより京都弁じゃないか? まあ、待たせてもらえばいいんじゃねーの? 神父さんみたいなのいるだろーし」
 秀也は、どこかホッとしたようにそう言った気がした。オレは、またそんな秀也の様子が気になったものの、少し先の、教会に 向かうことにした。

「誰かいませんか〜?」
 教会についたオレと秀也は、とりあえず誰かいないか探すことにした。
 オレは、教会に入ったら、すぐに人がいると思っていたから、誰もいないことが、少し不思議だった。というか、この教会自体、オレがイメージしていたものと、ぜんぜん違っていた。オレのイメージする教会は、鮮やかなステンドグラスに囲まれて、いつも日に満ちている、明るいイメージだったけど、この教会は、ステンドグラスなんてものはおろか、隣あっている建物のせいであまり日もささないし、並んでいる数人がけの木のイスは、どこかすたれているように思える。
 でも、そんな質素な教会にも、すごく目立つものがあった。
「おい拓斗、すげーな、これ……」
 どうやら人はいないらしく、オレ達は探すのをあきらめ、辺りをグルリと見渡したとき、すぐに目にとびこんできたものがあった。それは、
「うん……すっごいキレイな十字架……」
 教会の奥の壁に掲げられている、色とりどりの宝石のようなものがあしらわれた、ニメートルくらいある、大きな十字架だった。
 オレ達は、その十字架のあまりの美しさに、少しの間魅入ってしまっていた。
 と、その時、
「んー、また客人か?」
 その十字架の両サイドにある扉の、左側の扉が開き、シスターの格好をした女の人が現われた。
「あ、あなたはさっきの!」
 オレ達は、その女の人の存在に気付いて、そちらを向いた。そして、オレはそう言って、そのまま続ける。
「えっと、あなたに来てって言われたから、来てみちゃったんですけど……」
 その女人は、その言葉を聞くと、なぜか少し怪訝な顔をして、
「あ? 誰だオメェ。あたしに何か用か?」
 と、頭をポリポリとかきながらそう言った。
 その反応に、オレはとまどうことしかできなかった。
 そんな時、その女の人が出てきた扉から、また別の、セミロングの女の人が現われ、
「ねー、ティーファ。どうかしたの?」
 と、シスターの格好の女の人に向かって言った。
 すると、今度は秀也が、その後から現われた女の人を見て、
「あ! 湖矢の姉貴!」
 と、その女の人を指差してそう言った。
「あ、裕務のお友達の……天野くん、だっけ? ひさしぶり」

 オレと秀也は、なぜここに来たのかを、ティーファと呼ばれたシスターの格好の女の人と、湖矢のお姉さんに説明して、さっき落ちていた ペンダントを渡した。
 すると、湖矢のお姉さんが、ティーファと呼ばれた女の人に、何やら耳打ちをしたかと思うと、
「なるほどね。ええと、天野くんじゃない方の男のコは初めまして。裕務の姉の、湖矢裕奈でーす。よろしく。あ、ちなみに名前で 呼んでくれていいからね」
「あたしはこの教会のシスターを、や・ら・さ・れ・て・る、羅雹ティーファだ。まっ、よろしく」
 と、それぞれ自己紹介をした。
「あ、オレは倉地拓斗です。オレも下の名前でいいッスよ」
「裕奈さんはいいとして、ティーファさんは初めまして。オレは天野秀也。よろしく!」
 オレと秀也は、二人の耳打ちが気になったものの、こちらも自己紹介しなくては礼儀に反するので、同じようにした。
「ん、オメェ秀也っていうのか? ま、他人のそら似ってやつかねー。それに、こんなとこにいるわけねーもんな、あの方が」
 すると、秀也の自己紹介を聞いたティーファさんが、突然、そんなことを言った。それを聞いたオレと秀也は、思わず首をかしげる。オレは、その秀也に似ている、というのは、シュラ様かな、と考えつつも、ティーファという名前、どこかで聞いたことがあるような、とも考えていた。
「よーし、それじゃあお二人さん。お詫び、させてもらうわね」
「お、そうだったな、ゆーな。コイツらはそのために来たんだったな。もっとも、あたしがそう言ったんだけどな」
 でも、そんなオレ達にはかまわず、裕奈さんとティーファさんはそう言うと、オレ達の方を向いて、ニヤッと笑った。
 そんな裕奈さん達を見てオレ達は、なんとなく、いやな予感を、覚えるのであった。


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