5章 シスターの落し物

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「そりゃー大変だったな、拓斗」
 ここは、リンさん達のマンションの、オレと秀也の生活スペースとなった場所。さっき夕食や風呂をすませたオレと秀也は、 寝る前に雑談をしている。
 オレはあれから、ちょうどフォルテのマンションに向かっていた、リンさん、レイさん、秀也とおちあって、そのまま帰ることにした。ちなみに湖矢は、用がある、と言って、途中で別れていた。
 その帰り道、オレがレイさんからペンダントを貰っているとは知らないリンさんは、偶然できてしまったとはいえ、また魔法を使ってしまったオレに、いろいろと質問をぶつけてきた。オレは内心ヒヤヒヤものだったけど、レイさんがそんなリンさんを一喝してくれて、そのときは なんとか切り抜けることができた。
「でもあんなにすごい爆発……といってもランさんのおかげで未遂だったけど、本当にびっくりしたよ。それにまさか、湖矢 も魔人見習とはな〜」
 秀也のその言葉を聞いたオレは、ため息まじりでそう言った。
「でも、よく考えたら不思議じゃないかもしれないぜ? だってオレらだってこうして子なわけだし、オレらと同じガッコのやつが 子だってぜんぜんおかしくない」
「まぁ、そうかもね。意外にもっとたくさんいるのかも」
「だったら面白いのにな。……にしても拓斗、さっきレイさんから聞いたけど、リンのこと、大丈夫かよ」
 冗談混じりの話の中、急に秀也は、少し声のトーンをさげ、そう言った。
「ペンダントのこと……? オレも迷ってるんだ。いっそはずそうかな……。でも、なんで秘密にしないといけないんだろう?」
 オレも、話の内容から、秀也と同じように声のトーンを下げてそう言った。
「んー、子の育て方の考えの違いから……とか? でもさ拓斗、問題は明日だぜ。さっきの帰りとか、飯食ってるときはレイさん いたけどよ、明日、レイさんいないぜ?」
「え、レイさんいないの……? うわー、ど、どうしよ……。オレ、リンさんに問い詰められたら、絶対にボロが出るよ! そしてバレてレイさんに……あわわ」
「落ち着け! よし、そうだ、明日遊びにいく、とか言ってリンの近くにいなきゃいいんだよ。よし、拓斗、明日は久しぶりに ゲーセンでも行こうぜ」
「うん……そうしよか……」
 正直オレは、その提案には、なんでか分からないけど乗り気でなかった。でも、ほかにいい案があるわけでもなく、とりあえずオレ達は、そのまま眠ることにした。

 次の日。
 朝食を食べ終えたオレやリンさん達は、その後片付けをしていた。
 しばらくして、オレ達より早く片付けを終えたレイさんが、
「じゃあ行ってくる。帰りはいつになるかわからん」
 と言って、そのまま出かけていってしまった。
 いよいよやばい。リンさんがどうでるか気になったオレは、リンさんを見やる。するとリンさんは、レイさんが出かけるのを見計らっていたかのように、オレに近づいてくるじゃないか。オレは、どうすることもできず、その場に立ちすくんでいた。でも、そんなリンさんの動きに気づいたのか、秀也が、リンさんがオレに話しかける直前、
「お、おい拓斗、それじゃ、オレらも出かけよーぜ!」
 と言って、オレの手をグッと掴んだ。
 そしてオレは、秀也の意図はすぐに分かったので、
「う、うん、そうだね。じゃ、そういうことだからリンさん、行ってきます」
 と、リンさんに手を振りながらそう言った。
 そんなオレ達に、リンさんは、
「え? ちょ、ちょっと待ってよ! あたし、拓斗くんに話が!」
 と言って、出かけようとするオレ達を止めようとしたけど、ここで止まってしまってはまずい、オレ達は一目散に、家の外へと行った。

「よく考えたらここ、オレらの家の近くじゃねーんだよなー」
 なんとか脱出に成功したオレ達は、あんまり知らないこの地を前に、行く当てもなく、ただブラブラと歩いていた。それでも秀也は、遊びにいくからか、どこかウキウキしているようにも見える。でもオレは、少し気が重かった。なぜなら、レイさんとの約束があるとはいえ、あんなに強引にリンさんを振りきったことが、なんとなく嫌だったからだ。
「なあ拓斗、今日は久しぶりに遊びに行くんだから、楽しもーぜ。これからのことは、これから考えればいーじゃねーか、な?」
 そんなとき秀也は、妙に明るい声でそう言った。
 さすがは秀也だ、今までの付き合いから、たぶん今オレが考えていることを読んで、そうしてくれたんだと思う。
 それに気付いたオレは、オレも明るく振舞おう、そう思った。と、その時、
「ひゃあ!」
「うわ?!」
 オレの背後から突然女の人の声が聞こえて、次の瞬間、オレは地面に前のめりに倒れてしまっていた。オレは、一瞬何が起こったのか分からなかったけど、 「いたた……いったい、何が起きたん?」
 オレの上のほうからさっきの女の人の声が聞こえて、同時に妙に背中が重いような気がした。そして、気付いた。女の人がオレとぶつかって、オレの背中の上に乗っているんだと。
   急なことに驚いているのか、秀也は何も言わない。
「そや、こんなことしてる場合やなかった。ウチ急いどるんやったわー」
 その女の人は、いまだオレの背中の上に座ったまま、急いでいる、と言ってるわりには、のんびりとした口調でそう言った。
 オレは、このままだとずっと下敷きのままだ、と思い、
「あ、あの〜、そろそろどいていただきたいんですけど……」
 と、その女の人におずおずと言った。
 すると、ようやくその女も拓斗の存在に気づいたらしく、
「あ、ああ! すまんかった〜、ぜんぜん気付けへんかったわ〜」
 と言って、ようやくオレの背中の上から、ゆっくりと降りてくれた。
 その女の人の格好は、何かの映画でみたことあるけど、教会のシスターのそれみたいだ。そして、その女の人の表情も、なんていうか、まるで子供のような、無垢な表情だった。
「ホンマすまんかったわ〜。ウチ急いでてん。そや、お詫びがしたいな〜。あ、ウチ、ここの近くの教会でシスターやってるん。 もしよかったら、あとできてなー」
「え、あ、はい……」
 そして、その女の人はにっこりと笑ってそう言った。オレはとっさに、そうとしか言えなかった。
「それじゃ、ウチ行くなー。ほな、またなー」
 オレは、なんだかその女の人の、レイさんとはちょっと違うけど、意味有無を言わせず、というかんじの行動と言葉に、その女の人に、 不思議な何かを感じていた。
「……あれ? これは……?」
 その女の人の姿が見えなくなったあと、オレがなんとなく下を見ると、なにやら黒い光を放つものが落ちているのに気付いた。
「あ、これって魔力を吸い取るペンダントじゃねーか!」
 秀也がそれをひろいあげて、少し驚いてそう言う。
 オレは、自分のペンダントが首にかかっているのを確認して、
「オレのじゃないな……。さっきの女の人が落としたのかな……?」
 と、言った。
 でもオレ達には、その魔力を秘めたペンダントの持ち主が誰であるか、わかる由もなかった。


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