4章 本格始動!
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「で、なんでお前がいるんだよ……」
オレとリンさんは、市民公園に来ていた。
ここの魔法の練習の舞台となるグラウンドには、オレ達以外にもたくさんの人がいて、その人達をよくよく見ると、
なんと、全員が全員、魔の者や、その子なのだ。しかも、こんな公園という公共の施設で魔法の練習を行っていた。オレは、大丈夫なのか、と思ったけど、
リンさんの話によると、魔法のことが一般の人にバレても、さほど問題がないということらしい。マンガとかテレビとかでは、魔法はたいていバレてはいけないものだけど、実際それって違うんだな、とオレは思って、そういえばレイさんも前にそんなことを言っていたのを思い出した。
そんなこの公園で、オレがバッタリ出会ってしまった人物は、
「はぁ〜? それはこっちのセリフだ倉地!」
「オレは……なんでもいいだろ、湖矢!」
「へっ、だったらオレも言えねーなー……とまぁ、そのつもりだったが、そうもいかねーみたいだなー」
あの湖矢だった。
オレは、ここで湖矢と会ったという驚きがあったが、それ以上に湖矢のその言葉が気になり、先をうながす。
「な、どういう意味だよ、それ」
「そのペンダントだー。……お前も子だな?」
「な! え、待てよ、お前も、ってことは、湖矢、お前も?!」
オレは、ここにくるまで走ってきたせいで、いつもは服の下に隠してつけている、レイさんから貰ったあの黒いペンダントを思わず
凝視しながら、湖矢のその言葉に驚いていた。
「なー倉地」
そんな驚きに言葉を失っているオレに、こちらも驚いていたのか黙っていた湖矢が、口をひらいた。
「アホなお前でも魔法の一つは使えるんだろー? ……あ、まさか、使えねーのかー?」
「な、使えるよ! そっちこそどうなんだよ!」
オレは、オレを嘲るかのような湖矢のその言葉に、思わずそう言ってしまった。だけど、オレの魔人修行は今日からはじまるんだ。まだまともに魔法が使えるはずがない。勢いって恐い。
「使えなきゃこんなこと聞かねーよ、ばぁか」
オレは、そりゃそうだ、となぜか納得しつつ、同時にまずい、とも感じていた。今までの経験から、湖矢が次に何を言わんとしているのか、
分かってしまったからだ。
「おい倉地。少し魔法で戦ってみようぜー。まぁどうせ、オレが勝つんだろうけどよー」
やっぱり湖矢は、そう言ってきた。湖矢は、何かを手にすると、人に見せずにはいられない、という性格をしていて、相手も同じものを持っていると、たいていケンカを売って来るのだ。
でも、まだ子であるオレ達にとって、そんなことをするなんて無謀だから、リンさんや、湖矢を育てる魔の者が止めに入ってもおかしくない
ような気もするんだけど、当のその二人は、あいにくここには立ち合わせていなかった。ちなみにリンさんは、この公園に入ってすぐに、リンさんと
犬猿の仲らしいランさんとばったり出会ってしまい、オレをほったらかしにして、言い争いを始めてしまったのだった。
「じゃあいくぜー、倉地ー」
湖矢はそう言うと、今手を叩かんと、両手をかまえた。
これはやばい。湖矢は、どうやら本気のようだ。でもオレは、まだ魔法なんて使える自信はない。だけど、さっき大見得を切ってしまった手前、そんなことを口にするわけにもいかない。
オレは、必死に考えた。すると、人間必死になればなんでもできるというのは本当なようで、一つ考えが浮かんだ。唯一使えそうな魔法をおもいついたんだ。
そして、オレと湖矢は、互いに何かをイメージし、
「行くぜ〜倉地〜! 燃えろ〜〜!!」
次の瞬間、オレまわりを、炎が包んだ。
「へっ、やっぱオレの勝ちだな〜倉地〜」
湖矢のその声が聞こえたけど、オレは、とにかく心を落ち着かせ、一心にイメージを続ける。
「よ、よっし!」
次の瞬間、オレのまわりの炎が瞬時に消えて、かわりに怒涛の勢いで水があふれ出てきた。
「水だけは何度か使ったことがあったからもしかしたら、と思ったけど、成功〜!」
その水は、ほかでもない、オレが魔法で出したものだ。オレは今まで、何回か水を出す魔法を、たまたま使おうとして、たまたま成功させていたから、今回ももしかしたら使えるかもしれない、と思って、この魔法を使うことにしたんだ。そして、なんとかそれを成功させることができ、さらに運のいいことに、湖矢の使った魔法が炎だったから、
それをのがれることができた。
「な、なにー?! オレの唯一まともに使える魔法が……あっ!」
湖矢は、オレに魔法が破られたことがよっぽどショックだったみたいで、思わずそうもらしてしまった。オレはその言葉を、
聞きのがしてはいなかった。
「え、なんだ〜、湖矢もまともに魔法使えないんだ。よかった〜、オレも今のやつしか使えないんだよ。でもさ、今の状況なら、
お前はオレに勝てないってことだよね。火と水だし」
「くそっ! こうなったらティーファから教わった爆発の魔法を使ってやるー! おい倉地! お前も爆発をイメージ
しやがれ、同じ魔法なら平等だっ! いくぜ!!」
湖矢は、やっぱりオレの魔法に負けたことが悔しかったらしく、半ば開き直ってそう言って、目を閉じた。たぶん言葉通り、
爆発のイメージをしているんだと思う。オレは一瞬、その湖矢の行動にとまどったけど、さっき湖矢に勝った勢いもあって、オレも同じようにそれのイメージを始めた。
「きたー!」
「今だっ!」
オレと湖矢は、同時に手をパンと叩いた。
次の瞬間、オレは、自分の体の奥底から、ものすごい力の何かがわきあがってくるのを感じた。そして、そのあとすぐ、それは魔力だと気付き、同時に、その力
に自分がついていけない、ということも感じた。
そして――
爆音が轟いたかと思うと、オレの視界は、光につつまれた。