3章 高校にて

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「なるほど、それで遅刻したってわけか〜」
 放課後になり、オレと秀也はそれぞれの部活を終え、レイさんの注文どおり、秀也をレイさんのもとへとつれていくために、朝レイさんと待ち合わせ場所と決めた、高校の近くにある空き地 へ向かって、秀也と歩いていた。
 このとき話の種になったのは、”なぜオレが遅刻しそうになったか”で、オレは、一昨日リンさんとレイさんに捕まえられたことと、 今朝のことを秀也に話した。もちろん、魔法にかかわること話さないように、だけど。
「しっかし、おいしいシチュエーションだなぁ、拓斗」
「は?」
「だってそうだろ。同年代の女のコと一つ屋根の下、しかも二人も!」
 たしかに、秀也の言いたいことは分かる。でも、それはあくまであの二人を知らない人の意見である。リンさんとレイさんは 二人とも、オレが、この三日間という短い期間でさえ、ひとクセもふたクセもある、と感じてしまうほどの人物なのだ。しかも、魔女。
「そうでもないよー。一人は超マイペースだし、一人はものすっっごく恐いし。……シャレになんないよ?」
 だからオレは、苦笑しながらそう言った。
「ふーん、そうんなもんか〜」
 オレのその言葉に、秀也もなんともいえない顔でそう言った。

「あ、あの車だよ」
 数分後、オレと秀也は、待ち合わせ場所に着いていた。そこにはもうレイさんの車が止まっていて、オレは それを見つて、指をさして秀也にそう言った。
 車に乗っていたレイさんは、そんなオレ達に気づいたらしく、車から降りてきた。
「あ、レイさん。すいません、待ってましたか?」
「うお! すげー美人じゃん! っていうか胸デカッ!!」
「お、おい秀也。そんなこと言ったら殺される……!」
 オレは、レイさんの、あの恐さを知らない秀也の発言を、慌てて注意した。もちろん、秀也のその言葉自体はそれほど悪いものではないんだけど、 レイさんの性格上、それはアウトなのだ。でもレイさんは、そのことについては怒っていないようで、オレはひとまず胸をなでおろす。でも別のことで怒っていた。
「遅い! 貴様、ここに来るまでいったい何分かかっているんだ」
「え……何分って、ほんの四、五分ですけど……」
 レイさんは、オレ達が来るのがあまりにも遅い、ということについて怒っているみたいだ。どうやらレイさんは、そうとうの時間ここで 待っていたらしい。でも、オレはいまいち納得がいかない。どう考えても、高校を出てから四、五分しかたっていないのに、なんでレイさんは起こっているんだろう。
「嘘をつけ! 高校の終業時間は四時だと聞いている。だが今は六時だ。貴様は二時間も何をしていた!」
「え、ええ……?」
「あ、あのー、レイ? さん。たしかにガッコが終わったのは四時だけど、オレ達今さっきまで部活やってたんだけど……」
 オレは、いつもに増して恐いレイさんを見て、思わず小さくなってそうとしか言えなかった。でも、秀也はレイさんと初対面だからか、少しはビビりながらみたいだけど、そう言った。
「何? それは本当か?」
「は、はい、オレも秀也も運動部だし……」
 レイさんは、少し驚いたようにそう問う。オレは、未だ小さくなって、ビビリながらだけど、そう答えた。
「……そうか……悪かったな」
 レイさんは、悪びれた様子で、少し顔を赤らめてそう言った。
 オレはそれを見て、レイさんの謝るなんて意外だな、と思いつつ、レイさんの顔が少し赤かったから、謝るのになれていないんだな、とも思っていた。そして、まだ顔の赤いレイさんを見て、思わず、プッ、と吹き出してしまった。 でも、オレは慌てて口をおさえる。もしレイさんにそれを聞かれていたら、何をされるか分かったものではない。オレは、 おそるおそるレイさんを見ようと、振りかえろうとした。その瞬間、
「うわ?! あちち!」
 オレのまわりに、真っ赤な炎が出現した。その火の粉がとんで、何度もオレにあたり、そのチクチクする痛みに、オレはそう言ってしまう。どう考えてもこれは、吹き出してしまったオレを、バッチリ目撃したレイさんがやったものだろう。
 そうこうしている間にも、その炎はだんだん大きくなってきて、炎そのものがオレに当たりそうになる。オレは、なんとかしてこの炎を回避しようと思い、朝やったみたいに、とにかく、必死で水をイメージすることにする。これを失敗したら、死ぬ。そう考えると、否応無しに、頭の隅々まで水のイメージが支配していった。そして、そのイメージが絶頂に達したと感じたとき、 気合もろとも、手をおもいきり叩いた。
「はぁ、はぁ……。た、助かったぁ……」
 オレは、なんとか魔法を成功して、びしょ濡れになりながらも、胸をなでおろす。でもすぐに、しまった、と思った。部外者っぽい秀也に魔法を見せてしまったのだ。どうすればいいか分からなかったけど、ここはとにかく、恐いのは我慢して、レイさんに相談しようと思った。
 そしてレイさんに近づいて、なるべく秀也に聞こえないように、
「あの、レイさん。……すいません、秀也の前で魔法を使っちゃいました……。やっぱそういうのを知らない人に見せるのって まずい、ですよね……?」
 と言った。
 でも、心配しまくりのオレに対してレイさんは、
「なぜだ?」
 と、あっけらかんとそう言った。
「え?」
 オレは、そんなレイさんにキョトンして、思わず口からそうもれる。
「なぜまずい? 誰がそんなことを言った? だいたい、貴様が魔法を使う前に私が使ったではないか。それに……」
「そ、そういえばそうですよね……。えと、それに?」
 レイさんはそう言うと、秀也のほうを見た。オレは、ひとまず納得しつつ、続きをうながすようにそう言う。
「それに、私が貴様に奴をつれてこい、と頼んだ理由は、奴を私の子にするためだ」
「え、え〜〜?!」
 オレは、レイさんの口から出た予想だにしない言葉に、思わずそう叫んでしまった。
 秀也は、そろってこちらを見ている二人を見て、
「ん? オレに何か用か?」
 と言った。
 オレの気も知らないで……。ポカンとして言う秀也を見て、オレはそう考えずにはいられなかった。


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