3章 高校にて

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「しまった〜〜! 寝坊だ〜〜!!」
 次の日。
 今日は月曜日だから、オレは学校がある。しかしオレは、環境がかわったせいか夜寝つけなくて、そのせいで朝寝坊をしてしまった。
 リンさん達のマンションから高校までは、車で数十分かかるらしい。ちなみに始業時間は九時、今の時間は八時半。急げばぎりぎり で間に合う時間である。
 だけど、大きな問題があった。
「レイちゃ〜〜ん! 早く起きてってば〜〜!!」
「うるさい。まだ寝かせろ」
 実はレイさんは、ものすごく朝に弱かったのだ。
「レ、レイさん、おねがいです、早く起きてください!」
「うるさいと言っている! 貴様が遅刻しようと知ったことではない!」
「そ、そんな殺生なぁ……」
 オレは必死だった。
 オレは、とにかく遅刻したくない、その思いだけしか頭にはなかった。
 その時、ふと一つの単語が頭をよぎる。魔法。まだ使えるかわからないけど、オレは魔法を使ってレイさんを起こそうと思った。レイさんから貰ったペンダントをつけているから、なんとかなるかもしれない。オレは、イメージを開始した。一番ベタな起こした方は、やっぱり水をかけることだろうと、オレは思った。だからオレは、水を懸命にイメージした。そしてそのイメージが絶頂に達したと感じたとき、手をパンと叩いた。
「……なんのつもりだ、貴様」
 どうやら魔法は成功したらしく、レイさんと、レイさんの寝ていたベッドはずぶ濡れになっていた。おかげでレイさんは、完全に目を 覚ましたようだ。
 ……それはよかったんだけど、 「……殺す」
 完全にご立腹でもあるみたいだ。
「レ、レイちゃん落ち着いて! えーっと、拓斗くんを学校までつれて行くっていうのは、いちおう拓斗くんが ここに住む条件みたいなものなんだから、とにかくここは、ね?!」
 あたふたするばかりのオレのかわりに、リンさんがそう言ってくれて、なんとかこの場はおさまった。

「いってらっしゃ〜い」
 そのあと、すぐに準備を終わらせたオレは、リンさんから朝食のパンを貰って、レイさんと共に、玄関に向かおうとする。でも、レイさんはまだ怒っているのか、そそくさと一人で行ってしまった。そんなレイさんにビビリながらも、とにかくついていくオレ。
 そのあと、残されたリンさんが、
「あれ……? そういえば拓斗くん、ペンダントつけてないのに、なんで魔法を……?」
 と、つぶやいていたことなど、気付きもしなかった。

「あの〜、レイさん。さっきはすいませんでした……」
 車に乗ったオレとレイさんは、急いで高校に向かって出発した。
 レイさんはまだ怒っているのか、その目はいつもより鋭いように思えて、正直声をかけるのも恐かった。
 でもオレは、何も言わないほうがもっとまずい状況になる気がして、車に乗ってから数分たったけど、何度もレイさんにそう謝っていた。
 それでも、何も言わないレイさんを見て、オレが、本当に殺されるかも、などと考えていると、
「おい貴様」
「はい、拓斗です?! すいません、すいません!!」
 そう、急にレイさんにそう声をかけられた。オレは、あまりに驚いたため、意味不明な返事をしてしまう。
「……貴様、なぜ今私が怒っているか、分かるか?」
 レイさんは、そんなオレのことなど気にもしていないのか、そのまま話す。
「え、オレがレイさんに水をかけたからじゃないんですか……?」
「……違う。たしかにそれもないとは言えないが……貴様、私が昨日、ペンダントをつけていることをリンには秘密 にしておけ、と言ったのを忘れたか?」
「え、忘れてませんけど……」
 オレは、なんでそんなことを聞かれたか分からずに、首をかしげながらそう言った。
 それを聞いたレイさんは、やれやれといった感じをして、少しの怒ったかんじで、こう言う。
「……ではなぜ貴様はリンの前で魔法を使った?」
「……あ!」
 オレは気づいた。
 まだ未熟すぎるオレにとって、魔法を使うのはペンダントが必要になる。でもリンさんは、魔法を練習するとき以外はペンダントを預かっているから、オレがペンダントをつけていることなど知らないため、オレが魔法を使ってしまうと、それを不思議に思うだろう。
「……リンはああ見えてカンがいいからな。もし私があの時怒っていなかったら、リンがそのことに気づいて追求されていたかも しれん。……それにしても、貴様前リンに魔法を教わったときは、一度もうまくいかなかったのだろう? こういうときにかぎって成功 させるとは……」
「う、すいませんでした……」
「まあいい。リンにはあとで私がごまかしておく。それより、ついたぞ」
 どうやら話している間に高校についたみたいで、ここは、オレにとって見慣れた通学路だった。
 オレは、レイさんが思ったより怒らなかったことに胸をなでおろしつつも、ただ恐いだけの女の人と思っていたレイさんの印象が少し変わったような気がした。
「ありがとうございました、行ってきます」
「ちょっと待て。一つ言い忘れたことがあった」
 オレが礼を言って、車から降りようとすると、レイさんがそう呼びとめた。
「なんですか?」
「……この前貴様が言っていた、シュラ……様に似ているという者を帰りにつれてこい」
「え? なんでですか?」
「それはあとで説明する。とにかくつれてこい。……それより、遅刻するぞ」
「あ゛」
 オレは、なんで秀也をつれてこないといけないのか気になったけど、今はそれより、遅刻しない、ということのほうが大事だった。
 だからオレは、車から急いで降り、全速力で走り、高校に向かった。


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