2章 魔集会、そしてあいつ?

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 び、びっくりした……。さっきの人、秀也にすごく似てたけど、違う人だったのか……。山綺さん以上に恐かったし。
 オレは、さっき男と会った場所で、立ちすくんでしまっていた。
 さっきの男は、たしかに秀也そっくりだった。というか、そっくりというより、あれは秀也本人としか考えられない。でも、 やっぱりあの瞳は、秀也本人の瞳とはあきらかに違うものだと思った。
 だけど、結局のどうなのか、オレには分かる由もなかった。
「お、拓斗。なにしてんだ〜」
 そんなとき、背後から、聞き覚えのある声がした。
 オレが振り返ると、そこには、フォルテとピア、そしてカノンがいた。
「あら? レイとリンちゃんはどうしたの?」
「あーオレ、トイレ行ってて。そっちは何してるの?」
「私達は、シュラ様に呼ばれ、今し方まで、話をしていたのです」
「シュラ様?」
 オレは、カノンの口から出た、たぶん人の名前だと思うその単語がよく分からなくて、思わず聞き返す。今思うと、初めにフォルテ達 と話したときにも、出てきた名前だった。
「ああ。さっきもチラッと言ったかもしんねーけど、シュラ様ってのは魔帝って言われるオレ達魔の者のリーダーで、”天気の姓” を継いだお方だ」
「あまきのせい?」
 オレは、当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、最近分からない単語が多すぎだ、と思いながらも、また聞き返す。これにはピアが答えてくれる。
「えっとね、ちょっとフォルテの言いまわしが悪かったけど、天気の姓っていうのは、魔の者のリーダーに与えられる 階級なの。つまり、私の曇とか、フォルテの晴とかと同じようなもの。ちなみに、漢字で書くと天気、だけど、てんき って読まずに、あまきって読むの。で、それが名字で名前がシュラ。合わせて、天気シュラ、ってわけ」
「えっと、とにかく、その天気様ってのは、魔の者の中で一番エライってことなんだね」
 オレは、とりあえずそう納得し、手をポンと叩いてそう言った。
「……なあ拓斗。あの少しぬけてるリンのことだし、さっきも少し気になってたんだが、お前、あんまり魔の者のことについて 話されてないだろ?」
 そんなときフォルテが、オレの言葉を聞いてそう言った。
 オレは、なぜフォルテがそんなことを思ったかは分からなかったけど、海美さんがぬけている、というのは、今まで 何度か海美さんの口から”忘れてた”という言葉を聞いていたので、
「う、うん。まあ……」
 と言って、そのままフォルテの話を聞くことにした。
「やっぱりか。まあ、細かいことはレイかリンに聞けばいいとして、一つ、気になった事があったから言っとくとな、 姓が階級を表すってことはもう知ってるよな? で、お前さっきシュラ様のこと、天気様って呼んだ。その天気ってのは 階級だ。名前じゃない。……オレの言いたいこと、分かるか? 拓斗」
「え、えっと……」
「つまり、魔の者を呼ぶときは、階級を表す姓、ではなく、その人の名を呼べ、と、いうことです」
 困ってしまったオレのかわりに、カノンがまたやたらゆっくりとした口調でそう言った。それに、ピアも加えて話す。
「カノンと言うとおりよ。だから、もし拓斗がレイやリンちゃんのことを名字で呼んでいるんだとしたら、多少は失礼に値 するから、ちゃんと名前で呼んであげてね。もちろん、ほかの魔の者に対しても一緒よ」
「うん、分かった、今度からそうするよ。ありがとう」
 オレは、あの礼をしてそう言った。
「あ、なあ拓斗。もうすぐ魔集会始まるぞ。そろそろ戻ったほうがいいかもな」
「あら、ホント。あ、もしレイを待たせてるんだったら、はやく戻ったほうがいいわよ。恐いわよ〜、レイは」
 冗談半分でそう言ったピアだったが、今までの山綺さん……いや、レイさんを見るかぎり、それこそ恐ろしい目にあう。そう思ったオレは、
「う、うわぁ〜〜〜!? じゃ、じゃあ、フォルテ、ピア、カノン、またっ」
「グッドラック、拓斗〜」
 オレは、さらに冗談半分なフォルテ達を背に、一目散にリンさんとレイさんと分かれたところに走っていった。

「……分かっているんだろうな、貴様。こんなに私を待たせて、どうなるか……」
 ようやくレイさんのいるところに戻ってきたオレだけど、やっぱり、レイさんは怒っていた。しかも、いつものオレに対する”睨み” もあるから、余計に恐い。
 オレは、なんとかしてレイの気をなだめないといけないと思って、思いつくまま、精一杯の別の話題を切り出す。
「レ……レイさん。あの、えと、リ、リンさんはどうしたんですか?」
「……」
 レイさんは、オレのそんな考えに気付いたのか、一瞬何かを考えたようだったけど、その後、無言で歩き始め、たぶん 魔集会の会場であろうホールの扉を開けて、そのまま中に入っていった。オレは、何も言われなくてよかった、と思いつつも、慌てて続いた。

 中に入ると、もうたくさんの人がいて、それぞれ雑談をしている。
 オレは、ここにいる人達みんな魔人とかなのかなあ、と思いながら、辺りをキョロキョロ見渡していると、ホールにある舞台の下あたりに、リンさんを見つけた。 声をかけようと思って近づくと、リンさんは、リンさんよりもかなり年上のように思える、金髪で、派手は洋服を着て、紫色の扇子を持った、いかにもお嬢様 というかんじの外見の女の人と、何か言い争いをしていた。
「まったく、本当にあなたはガキですわね!」
「ふ〜んだ、そっちだって!」
 なんだか子供みたいな言い争いを、オレは半ば呆れて見ていると、スッとオレの横にレイさんが現われた。
「……あの女は雨宮ラン。名字から分かると思うが、特級魔人だ。なぜかいつもリンといがみあっていて、リンが唯一 呼び捨てにする相手だ」
「特級魔人っていうから、どんなにエラそうにしてる人達かと思ってたけど、フォルテとピアも含めて、そうでもないんですね。 あ、そういえばリンさんって誰にでも”さん”だの”ちゃん”だのつけてますもんね」
 突然現われたレイさんに、オレはビクッとなって、かなり身構えたんだけど、レイさんは特に何かをする様子はなかったので、 オレ率直な感想を言った。
「き〜〜〜! 胸もないガキがよくわめくことですわねっ!」
「む、むむむ、胸なんかなくたっていいもん! それにランみたいなおっきいだけの年増なんかより よっぽどマシだよ〜〜〜〜だ!!」
「と、としとし年増?! もう一回言ってみなさい、クソガキ〜〜〜〜〜〜〜!!」
「何回でも言うよ! 年増年増年増年増年増、と・し・ま〜〜〜!!」
 それにしても、どうなんだよ、これは。
 オレは、苦笑しつつそんなことを思っていた。
「あんなやつらは放っておけ。どうせいつものことだ。そんなことより、そろそろ始まるぞ」
 レイさんにそう言われて間もなく、魔集会は始まった。
 魔集会とはどんなものなのか、少し期待と不安を持っていたオレだったけど、なんのこたあない、魔集会といっても、 普通に高校とかで行われる集会となにも変わっていなかった。普通に司会がいて、舞台の上で話す人がいて、オレは正直、 拍子抜けしてしまっていた。
「それでは、魔帝、天気シュラ様よりお言葉を頂きます」
 司会らしき人がそう言うと、舞台の袖にある来賓席のような場所から、一人の男が立ちあがり、舞台の上に上ってきた。
「あ、あの人は……!」
 オレは、その男を見ると、思わずそう言ってしまった。
 その男は、さっき会った、秀也そっくりの男だった。   


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