2章 魔集会、そしてあいつ?

     2


「ね、ねえ、海美さん。ここって……」
「うん、見てのとおり市民ホールだよ」
 オレと海美さんは、海美さんのその言葉どおり市民ホールに来ていた。
 いちおう休日だけど、あんまり人はいなくて、ごくたまに、すれ違う程度だ。
 走ったことが影響してか、少しはやく着いてしまったらしいけど、オレはそんなことなど気にしていなくて、ただ、市民ホールというところに違和感を感じていた。オレはてっきり、ゲームとかによく出てくる、”魔界”みたいなところに連れて行かれると思っていたからだ。
「あ、もしかして、魔界で集会、みたいなことを期待してた?」
 オレは、海美さんに、そうグサリと図星をつかれてしまい、
「え、いやいやいや! そんなことないって!」
 と、分かり易く動揺しながら、そう言った。
「あはは、やっぱり面白いな〜、拓斗くんは。まあ、十年前まではホントに魔界でやってたらしいんだけどね」
「え、魔界って本当にあるの?!」
「うん、あるよ。今もちゃんとあるんだけど、ちょっとね〜」
 オレは、海美さんの言葉から出たそのことを聞き、 ただただ驚いてしまう。
「まあ、あたし達魔の者に言わせれば、拓斗くんが言うところの魔界は、普通の世界なんだけどね」
 そんなことを知ってしまったオレは、魔界ってどんなところか、とか、なんで十年前はやっていたのに今はやれないのか、とか、本当は 聞きたいことがたくさんあったんだけど、
「あ、レイちゃんだ! 行こう、拓斗くん!」
 と、海美さんがそう言って、少し先にいる山綺さんを見つけ、そちらのほうに行ってしまったため、それ以上その話をすることができず、しかたなく海美さんについていくことにする。

 オレが海美さん達がいるところにくると、海美さん達は、緑がかった髪をした大柄な男と、黒い長髪をした女の人と話していた。
「お、そこにいるのがリンの”子”か?」
 オレが海美さんに声をかけようとすると、オレに気付いた男が、海美さんにそう言った。
「うん、そうそう。あたしの子の、拓斗くん」
「へ〜、結構賢そうじゃない」
 海美さんがそう答える、今度は女の人のほうもオレを見て、そう言った。
 オレのほうを見る、男と女の人を見て、オレはなにか言ったほうがいいとは思ったけど、それ以上に気になる単語がある。子、なるものだ。
 これは、オレがあとで海美さんに聞いた話なんだけど、子というのは、魔人育成の儀によって育てられる、オレみたなやつのことを指すということだ。
「おい、貴様。何を黙っている。とっとと自己紹介をしろ」
 山綺さんが、ボーッとしているオレに、またしても睨みつけながらそう言ったため、オレは慌てて、その男と女の人 に向かって自己紹介をすることにする。
「え、えっと、高校二年の倉地拓斗です。よろしくおねがいします」
 そして、そう簡単に挨拶をしたオレは、ふとさっきのことを思い出して、海美さんに教わった、あの礼をした。すると、
「なに? もう”姓”があるのか?」
 と、男のほうが、なぜか驚きながらそう言った。
「しかも”地”っていったら、中級魔人よね?!」
 そして、女のほうも驚いてそう言った。
 なにがなんだかよく分かっていないオレに、海美さんが、
「あ、ゴメンゴメン、言い忘れてたよ。あのね、魔の者の言う”名字 ”っていうのは、キミ達が普段使ってる意味とは違って……」
 海美さんによると、魔の者の言うところの名字とか、姓っていうのは、一言で言うなら”階級”を表すものであるという。
 そして、魔の者の階級は、”天気”の名前が使われて、例えば、晴や、雨が名字に入っている、というようなことらしい。
 さらに、その名字によって魔の者達は、初級魔人、中級魔人、上級魔人というかんじで、魔法と同じように分けられるということだ。
 初級魔人といわれる人達は、名字を持たない者のことを指す。
 次に、中級魔人は、名字は持っていても、その名字に直接天気の名前が入っているわけではなく、間接的に天気と関係 している字が入っている者のことをいうらしく、ほとんどの魔の者はここに属し、海美さんや山綺さんもここに入るらしい。ちなみに、海美さんの名字の 海、山綺さんの名字の山、がそれにあたるということだ。
 最後に、上級魔人とは、直接天気の名前が入っている者のことを言って、一番属している魔の者の数が少ないということだ。
 そして、その中でも特に、晴、曇、雨が入る名字を持っている者は、特級魔人と呼ばれて、その人達の魔法は、ほかとは比べ物にならないくらいすごいらしい。そして、特級魔人達は子を育てないということも聞いた。
「……で、その名字を決めるのが、魔人育成の儀、ってわけ。大体分かったかな?」
「うん、たぶん、きっと……」
 オレは、初級だの天気だの名字だのと、いきなりいろいろなことを言われ、正直分けが分からなかったけど、昨日からのことを 考えると、こういう話は、もう普通とも感じ取れるようになってしまったオレは、なんとか混乱せずにすんでいた。でも、普通と感じ取れる、ってのもどうなんだろう。
「あはは、まあゆっくり理解すればいいって。あ、それとさ、特級魔人って言うのは、ほかのとはちょっと違って……」
 そんなオレを、海美さんはクスリと笑いながら、何かを言おうとした、んだけど、男が、海美さんの言いたかったことを先読みしたらしく、話し始めてしまう。
「特級魔人っていうのはな、魔人育成の儀で、自分の子がどんなに優秀でもなれるわけじゃないんだ。まあ上級でも上の方に 属することはできるんだけどな。特級になるには、オレ達みたいに、オレ達のリーダーであるシュラ様に任命してもらわない といけないんだなー」
「ちょっとー、フォルテさん! それあたしが言いたかったことなのにー」
「そ、そんなことより、それって……!」
「おーそうだ、オレらの自己紹介がまだだったな。オレは安晴フォルテ。あんせい、の、せい、は、晴っていう字、 つまりオレは特級魔人だったりするんだなー」
 そのフォルテと名乗った男は、得意げな顔をしてそう言った。そうすると、その隣にいる女の人が、フォルテって人をを軽く叩きながら、
「ちょっと、なにカッコつけてんのよフォルテ! あ、私の自己紹介もしなくちゃね。私は曇樹ピア。たんじゅ、の、たん、が 曇っていう字。だから私も、いちおう特級魔人なの」
 と言って、オレにあの礼をした。だけどオレは、礼を返すのも忘れて、その言葉を聞き、半ば取り乱しながら、
「え、ってことは、すごくエライ人?! わ、わぁ、どうしよ……。オレなんも失礼なことしてないよね?! ね、ねえ海美さん、 してないよね?!」
 と、海美さんの肩をつかんで揺らしながら、そう叫んだ。 「はっはっは、面白いな、お前。拓斗……だっけ? これからよろしくな。オレのことはフォルテ、って呼び捨てで呼んでくれよ。 リンみたく、さん付けされるのはなんか違和感あるからな。ついでに、コイツのことも呼び捨てで呼べよー」
 そんなオレの反応が可笑しかったのかわからないけど、少し上機嫌になったような気がするフォルテって人は、ピアって女の人の肩をポンと叩きながらそう言った。 そのピアって女の人も、
「うん、私もそうしてくれたほうが気楽でいいかも。だいたい、私もフォルテも、正直なところ高い地位って性に合わないのよ」
 と、笑顔でそう言ってくれた。
 そんなフォルテって人とピアって女の人を見たオレは、なんとか落ち着いて、
「え、えっと、よろしく、フォルテ、ピア!」
 と、二人に言われたとおり、呼び捨てでそう言った。
 本当のところ、どうにでもなれ! と思いながらそう言ったんだけど、とりあえず、二人のことはそう呼ぶことになった。そして、 それをきっかけにして、なんとなく、うちとけることができた。

 オレ達が、しばらく雑談をしていると、オレの背後から、
「お姉様、フォルテさん、シュラ様がお呼びです」
 と、ふいに声がした。
 オレが振り返ると、小柄な女の人が、一人立っていた。
「あらカノン。え? もうそんな時間なの? 急がないとね。行くわよ、フォルテ」
「おう、じゃあな、リン、レイ、拓斗」
 突然のことだったけど、とりあえず、去っていくフォルテ達を、手を振って見送るオレ達。
「今の女のコ、ピアさんの妹さんのカノンちゃんだよ」
 海美さんが、さきほどいきなり登場し、すぐに去ってしまった女の人の紹介をしてくれた。だけどオレは、その海美さんの言葉を、 しっかり聞いていなかった。なぜなら、
「あの〜、海美さん。と、トイレに行きたいんですけど……」
 からだ。
 実は、フォルテ達と雑談をしている間中行きたかったんだけど、いくらうちとけたからといっても、もう魔の者に染まってしまったオレは、身分が上のフォルテ達の前から、トイレなんていうつまらない理由で去るのは失礼な気がして、そうすることができなかったんだ。 「ん〜、もうあんまり時間ないから、急いでね」
「間に合わなかったら……」
「ひ、ひえ〜〜、行ってきます!!」
 山綺さんの、あいかわらずスゴミのある言葉におびえつつ、オレはダッシュでトイレへと向かった。

 今考えると、オレの着てる服って、部活のユニフォームなんだっけ。これから着る服、どうしようかな……。
 用を足したオレは、開放感を感じながら、そんなことを考えて、トイレをあとにしていた
――と。
 少し先を歩く男を見たオレは、その男を、なんとなく見覚えがある、と感じていた。そして、ハタと気付いた。一瞬、なぜそのシルエットの男がここにいるのかと思っけど、よく考えたらここは市民ホールなんだから、いても当然 だと思い、オレは、
「秀也!」
 と、その男のほうに声をかけた。
 だけど、オレの声が聞こえていないようで、その男はそのまま歩き続ける。
「おい、秀也ってば」
 オレは、こっちのほうが手っ取り早いと思い、その男のところまで走って追いつき、肩をグッと掴んでそう言った。すると、ようやく その男は振り返った。
 その瞬間、オレは凍りついた。
「……誰だ、貴様は……?」
 なぜなら、その男はたしかに秀也にそっくりなのだが、その瞳を見ると、まるで別人のように感じ、全身がゾクゾクするような 感覚を覚えたからだ。
 その男の瞳はまるで、全てのものを見下すような瞳だった。


 TOP 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送