10章 表・裏、それぞれの
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「も〜、嫌やわ〜拓斗クン、秀也クン」
オレと秀也は、なんとなくあっけにとられていた。というか、自分達の浅はかさに、嫌気がさしていた。
実は、オレ達のヒソヒソ話は、リノファさんがばっちり聞いていたらしく、そう言って笑われてしまったのだ。
そりゃそうだ、仮面なんて言われたら、誰だってとりあえずリノファさんを疑うだろうし、こうして一緒にいるってことは、
リノファさんは裏魔人派と関係ないってことじゃないか。
「すいません……」
そしてオレと秀也は、声をそろえてそう言った。
「まあ、十年前にも疑われたことがあったしな、オメェらがそう思うのも無理ねえ」
「そんなこともあったな〜。あんときはウチら八歳やったし、大変やったわ。そういえば、フォルテには世話になったな〜」
そんなオレ達に、ティーファさんがそう言ってくれた。おかげで気が楽になった。そしてそのあと、リノファさんが思い出す
ようにそう言う。
「そんなこともあったようですわね。わたくしはよく知らないのですが」
続いて、ランさんもそう言った。さすがのランさんも、十年前のこととなると、よくは知らないらしい。あれ? でもランさんと
フォルテって同じくらいの年のはずなのに、なんでフォルテは、今の話から察するに、詳そうなんだろう。
「ねえラン、あとは付け加え程度に、”禁句”とかも教えておいたほうがいいんじゃない?」
「禁句って?」
でも、その疑問も、尋ねることはできなかった。リンさんがそう言って、それに裕奈さんがのってしまったからだ。
「そらならちょっと知ってるぜー、姉ちゃんー」
「そういえば、ヒロムには少し話たことがあったな」
それを聞いた湖矢は、裕奈さんにそう言い、ティーファさんがそう言うと、いよいよさっきの疑問を問うことができなくなって
しまった。でも、そのリンさんの話は、なんとなくオレの興味をひいたから、そのまま聞くことにする。
「裏は、”裏語”なるものを作り、もともとは誰でも、といっても魔の者の中だけの話ですが、普通に話していた単語を、話せなく
してしまったのですわ。もちろん、本当に”話せない”というわけではありませんわ。ただ、裏でない魔の者達は、妙にそれを意識
してしまって、今はたいていの時、裏でない魔の者達は、その裏語を話さなくなってしまったのですわ」
「例えばな、さっきから、裏でない裏でないって、まわりくどい言い方しとるけど、本来の言葉の”表”っていうんは裏語、つまり
禁句なんや」
「ほかにもね、今までは、子を育てた魔の者、とか言ってたけどさ、もともとは”親”って言ってたんだ。だけど、それも禁句
なんだよね」
ランさんとリノファさん、そしてリンさんの話を聞いて、その禁句とか、裏語とかの言葉の意味を、なんとなく理解することが
できた。たしかに今まで、そんなまわりくどい言い方をしていた。
「あ、それとね、禁句とはちょっと違うんだけど、思考の近い? っていうのかな、とにかく、ちょっと食い違う部分があるんだ」
「思考の違い?」
そんなときリンさんが、オレ達子を見渡しながらそう言った。そして、秀也がそう問う。はじめは裏魔人派の存在すら知らなかった
秀也だけど、リンさん達の話を聞くうちに、理解することができたらしい。
「あんな、拓斗クンはリンちゃんやレイに聞いたことあるみたいやけど、今裏やない魔の者は、魔法が、魔法を知らんやつらに
知られても問題ないって言うんや。でもな、もともとは違ってん」
リノファさんの話によると、魔法なんてものが世に知られたら、妙なことを企むことが出てきて、パニックになるだろうから、
裏じゃない魔の者達は、”魔法は一般の者に知られてはいけない”と言っていた。でも、裏魔人派が同じことを唱えていると知ると、
それとは逆の、”魔法を一般の者に知られてもよい”と言うようになってしまったという。それでも、本当に知られてしまったら
どうなってしまうか分かっている裏じゃない魔の者達は、結局のところ、一般の者に魔法を知られないようにしている、ということ
だった。
オレは正直、なんでそんな妙なことをするのか、と思った。禁句もそうだし、今の話もそう。だいたい、裏魔人はなんて
どうして生まれたんだろう。
それと、もう一つ気になることが……。
「え? あたしすごい勘違いしてたかも。あたし、本当に魔法を一般の人に知られてもいいって思ってた」
その時、リンさんがあっけらかんとそう言った。周りの面々は、そんなリンさんの発言に、一瞬驚いたみたいだったけど、すぐに
呆れ顔になって、リンさんを見ていた。
オレも、そんな雰囲気にのまれて、いろいろな疑問も、なんとなくどうでもよくなってしまった。
でも、このもう一つの気になることは、やっぱりひっかかる。でも、うかつに質問できることじゃないかもしれないし、やっぱり
保留かな。
とにかく、今回はこんなところでお開きとなり、皆はそれぞれ、家路へとつくことにした。