10章 表・裏、それぞれの

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「拓斗クンは、裏魔人派のことどんくらいしっとるん?」
 オレは、緊張していた。
 こっちの世界に足を踏み入れてから、何度もそんな場面はあったけど、そんなのが比にならないくらいに だ。やっぱり、今からさせる話に、少なからず抵抗があるからだと思う。
 そんなオレの気持ちを察したのか、リノファさんがオレにそう問う。リノファさんの無垢な笑顔を見ると、 なんとなく気持ちがほぐれた。
「んーと……十年前に魔界を奪った……くらいかな?」
 オレは、前にオレの部屋で、リンさんと話たときのことを思い出しながらそう言う。そして、その時の ことを思い出したオレは、あのときの、リンさんの哀しそうな表情も思いだし、やっぱりこの話は、 聞かないといけないんだ、と思うことが出来た。と、同時に、もう一つ思い出した、あの時のリンさんの 話で感じた矛盾を、ここで問うことにした。
「あの、魔界奪還の戦って、実際に裏魔人派の人と戦うんですよね? なら、もし裏魔人派の人に会ったら 、分かるんじゃないですか?」
 オレが感じていた矛盾、それは、裏魔人派の人を捕まえて、いろいろと聞き出せばいいのに、なぜそれを しないか、ということだった。もし捕まえた裏魔人派の人がだんまりを決め込んだとしても、読心術みたい な魔法がありそうだし、自殺したり、逃げ出そうとしたとしても、相手の動きを封じる魔法もある と思う。だからオレは、矛盾を感じていた。
「まぁそう焦るな。そういうのも含めて、話するんだからよ」
 緊張がとけ、今度は興奮してきてしまったオレを、ティーファさんがそう言ってなだめる。
「たいていの子は、拓斗さん同様、裏魔人派は魔界を奪った、としか聞いていないでしょうね」
「オレもそれしかしらねー」
「わたしもー」
 ランさんのその意味深な言葉に、湖矢と裕奈さんは、あっけらかんとそう言う。
「あのさ……」
 オレが、ランさんの言葉の続きな気になり、それを聞こうと思ったら、秀也がそう言って、
「うらまじんは、って何だ? 初めて聞くんだけど」
 と続けた。
 その言葉に、オレも、周りの皆も、え?、となった。
 裏魔人派の存在自体は、遅かれ早かれ、子であるうちに誰でも聞くらしいからだ。
「レイから聞いてないん?」
「まったく……」
 リノファさんのその問いに、秀也は首を振りながらそう答える。どうやら、本当に何も知らないようだ。
「まぁとにかくー、知ってるにしても知らないにしても、今からその話するんだから、 問題ないんじゃない?」
「そうだよ。ランさん、話を続けてください」
 リンさんのその言葉にオレは同様しつつ、気になっていたランさんの話の続きをうながす。
「では、そうしましょう」
 そして、ランさんもそれに同意し、話始めた。
「今からする話は、普通の子は、魔人育成の儀が終わり、その次の魔集会のときに初めて知るものですわ。 ですが、拓斗さんと裕務さんは、今までとは訳が違います」
 オレと湖矢は、そのランさんの強い口調で話されるそれを聞き、思わず唾をゴクリと飲む。
「拓斗くんには、子どうしの潰し合いがある、って言ったことあったよね? それ、実はちょっと 違うんだ」
「その潰し合いは、裏魔人派の奴らに育てられた子が、裏魔人派じゃねー子を、一方的に殺しちまうんだ。 つまり、つぶし”合い”じゃねーんだ」
 オレは、リンさんとティーファさんの言葉に驚いたけど、少し疑問も残った。それは、そのくらいの ことなら、子のときに話しても問題ないんじゃないか、ということだ。むしろ潰し合いよりもソフトな 説明な気がしなくもない。
「あの、なんでその話を子にしちゃいけないんですか?」
 だからオレは、その疑問を問うことにする。
「う〜ん、それはウチらにも分からないんよ〜」
「あたしも初めて聞いたときは同じ疑問を持ったけど、それが魔の者の掟だって言われちゃってさ〜」
 でも、結局答えらしい答えは得ることができなかった。オレは、とりあえずあきらめることにした。
「まあその話はまた今度として、さきほど言った、訳が違う、というのの理由です」
 ランさんは、さっきから何度も話がそれていたから、少し焦っていたらしく、少し強引に話の流れ を戻す。
「普通裏魔人派が子を狙うのは、有能な子を殺し、裏魔人派の魔の者が育てた子を、魔人育成の儀で上位 につけ、それによりその子を育てた魔の者を上級魔人にし、裏魔人派は、裏でないところを、結果的に のっとろうとするからです」
 オレはそれを聞いて、裏魔人派に対して怒りを覚えるとともに、恐怖も感じた。今までの話の流れと、 これまでの何度かあった戦闘から察するに、どう考えてもオレは裏魔人派に狙われているからだ。たぶん、 湖矢もそうなんだと思う。
「でもね、拓斗くんと裕務くんの場合、そうじゃないんだ」
「どうやら裏魔人派のヤツらは、オメェらを殺すんじゃなく、仲間にしようとしているらしい」
 オレと湖矢は、そのリンさんとティーファさんの話を聞き、思わず、
「え?」
 と同時にもらしてしまった。


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