10章 表・裏、それぞれの

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 オレは、深刻な話をされることはなんとなく分かったけど、詳しいことは聞かされないまま、 とりあえずリンさん達の後について、前教会に来たときには入らなかった、あのすごい十字架の右側の 部屋へと入った。左側の部屋が不気味なお面の部屋だっただけに、右側も似たようなものかと思い、一瞬 精神的に身構えたけど、案外普通で、逆に驚いた。
「あ、裕務、起きた?」
 部屋の一番奥にはベッドがあって、そこにはさっきまで眠っていたらしい湖矢が、座っていた。それに、 いちはやく気付いた裕奈さんが、そう声をかける。やっぱり、姉である裕奈さんが、一番湖矢のことが 心配だったんだと思う。
「へぇ、死んでねーのか、倉地」
 みんなで湖矢に近づき、大丈夫? などと声をかけていると、オレの存在に気付いた湖矢は、いつもの 調子でそう言った。いつもはただうざったいだけの湖矢だけど、今は逆にそれが嬉しかった。 だからオレも、
「湖矢こそよく生きてたねー。でも、あのマヌケなお面の奴にやられるなんてどうかしてるよ。 オレが倒しちゃったし」
 と、いつもの調子で言ってやった。
「さて、そろそろ本題に入りま……え? しゅ、シュラ様?! なぜここに?!」
 しばらくそんな調子で湖矢と話していると、ランさんが痺れをきらしたのか、そう切り出そうとした。 でも、オレの後ろにいた秀也に気付くと、驚いてそう言った。
「あ、オレ、その、シュラ様じゃないッス。オレは秀也って言います。会う人会う人、間違われるけど、 別人です」
 いつもは軽いノリの秀也も、さすがに特級魔人相手で緊張したらしく、普段はあまり使わない敬語で そう言った。
 秀也は、自分がシュラ様に似ているということに自覚症状があって、何度もシュラ様に会っている はずのランさんも 間違えたから、オレは改めて、秀也とシュラ様は似てるんだな、と思った。
「そういえば、子の中にシュラ様そっくりな方がいるという噂を聞いたことがありましたわね。 あなたがそうだったんですか」
「たぶん、そうッス」
「ウチらも、初めて秀也クンを見たときは驚いたな〜、ティーファ」
「魔帝が来たと思って正直ビビったぜ」
 ランさん達の横では、リノファさんとティーファさんがそんな会話をしていた。でも、ちょっと 思い出して見ると、初めてこの教会に来たとき、二人はあんまり驚いてるように 見えなかった気がする。
「あ……わたくしとしたことが、話をそらしてしまいましたわ。すいません。では、改めて、 本題に入りますわ」
 オレは、秀也のことの雑談を聞いていて、なんとなく気が抜けていたけど、ランさんのその言葉を聞き、 一気に気が引き締まった気がした。それは、どうやらほかのみんなも同じようで、みんな、真面目な 顔つきになった。
「ホントならこの話、ちゃんと魔の者になってから知るのが普通なんだけど、事情が事情だから」
 まずは、リンさんがそう切り出した。リンさんも、今は笑顔ではなく、真剣な顔つきだ。
「これはな、拓斗クンとヒロムに関わる、重要な話なんや」
 そして、そう言うリノファさんもまた然りで、いつもの笑顔はなかった。
 オレは、改めて自分の気持ちを引き締める。
「あ、あの、オレはこの話、聞いてもいいんですか?」
「あ、わたしも……」  そんな時、ここにいる子の中で、名前があがらなかった秀也と裕奈さんが、この場の雰囲気から、 少し恐縮しながら言う。
「ああ、オメェも聞いとけ。ここにレイも呼んであったんだけどな、用があるとかで来ねーみたいだから、 オメェから伝えとけ。ゆーなも弟のことだしな」
 オレは、そんなことで重要という話をしていいものか、とも思ったけど、レイさんのことを考えたら、 またあの時の、爆煙の中から現われたレイさんを思い出して、どっちの考えも中断してしまった。
「分かった」
「そうだね」
 秀也と裕奈さんは、そう言ってうなずいた。
 これは、あとで聞いた話だけど、本当は今オレに話をするつもりはなかったらしく、まずは湖矢に話を するために集まって、レイさんも呼んでいたらしい。そこに、たまたまオレと秀也が来たのだ。
「では、話を始めますわ」
「拓斗くん、いつか話した、裏魔人派、って覚えてるかな?」
「子どうしの潰し合い、ってのもだ」
 オレは、リンさんとティーファさんのその言葉を聞き、思わず唾をごくりと飲んだ。
 こっちの世界……魔法を扱う世界に、初めて足を踏み入れたときのオレは、驚いたり、少し恐かったりも したけど、なんとなく楽しめればいい、そう思っていた。でも、そんな中で、この少しの期間の中で、 何度か暗い事実にも直面した。そこで聞いた言葉、オレが、聞きたかったけど、心のどこかで、聞きたく ないと思っていた、その言葉、裏魔人派。
 その意味を、ついに聞くときが、来た。


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