10章 表・裏、それぞれの
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「よし、行こっか」
放課になり、オレと秀也は、リノファさん達の教会に向かうことにした。秀也はさっき、レイさんにケータイで、今日は迎えに
こなくていい、というかんじの電話をしたから、レイさんを怒らせることはなさそうだ。
「そういやさ、ここから教会って、かなり遠くないか?」
教会に向かって歩き出すと、秀也がそう言う。ちなみにオレは、自転車を押して歩いている。
「あ、そういえば……。前にうちから市民公園まで走って行ったことあるけど、そのときは無我夢中で、距離なんて感じなかった
しなぁ。今思うと、けっこう走ってたかも」
オレは、秀也のその言葉に、前にリンさんを探して、走ったときのことを思い出しつつそう言った。
よく考えたら、リンさん達のマンションから学校まで、車で数十分かかる距離で、市民公園や教会は、そこから少し歩いたところ
にある。つまり、この高校周辺からは、そこまでかなり遠いということだ。
「オレん家行って自転車とってきてもいいけど、教会と反対方向だもんな。どうするよ?」
「反対なの? あ、じゃあさ、オレのこの自転車、ランさんに貰ったんだけど、まだたくさんあるんだ。
秀也もそれ使う?」
秀也は、オレと違って方向音痴じゃないから、オレは秀也の言葉を信じ、今朝の大量の自転車を思い出しつつ、そう言った。
「そういや、ランさんって金持ちだって聞いたことあんな〜。会ったことねーけど」
「じゃあとりあえず、ランさん家行こっか〜」
そしてオレ達は、まずはランさんの家に向かうことにした。
「んーと……ただいま〜」
オレは、まだランさんの家に慣れていないので、そう言うことに少しためらいを感じつつも、いちおう礼儀として言う。ちなみに
鍵は、昨日貰っていたから、それを使ってドアを開けた。
「ふ〜ん、意外と質素なんだな」
秀也は、オレに続いて部屋に入ると、オレが昨日持った感想と、同じことを口にする。
「あれ? リンさんもランさんもいないや。どっか行ったのかな?」
オレは、とりあえずランさんがオレの部屋にしてくれた部屋に荷物を置き、秀也のいるリビングに戻ってくると、二人がいないことに
気付いて、そうもらす。
「っていうか、湖矢がいるんじゃなかったのか?」
「あ、そういえば……。どうしたんだろ」
オレは、秀也にそう言われて、ランさんに、大丈夫だ、と言われていたため、すっかり忘れていた、湖矢のことを思い出す。
「あ、もしかしたら、教会に行ったんじゃないか?」
「あ、そうかも。リンさんとランさんが、湖矢をリノファさん達に届けに行ったのかも」
「向こうで会うかもな」
そんなこんなで、オレ達はそう結論を出し、まだたくさん置いてある自転車の一つに秀也は乗り、改めて教会に向かって出発した。
「この前はゴメンね〜。うちのティーファが追い返したかんじになっちゃってさ。実はね……」
「おい、こら、ゆーな! いらんこと言うなバカ!!」
教会に着くと、たまたま入り口の近くにいた裕奈さんが、オレと秀也を迎えてくれた。裕奈さんは続けて何か言おうとしたみたい
だったけど、奥から走って現われたティーファさんが、それをさえぎる。今日はシスターの服を着てなくて、ちょっと新鮮なかんじだ。
「えー、いいじゃん、話しても。いっそ二人に聞かせちゃえば?」
「絶っ対嫌だ! ゆーなやヒロムに聞かれるのも嫌だってのに、コイツらに聞かせるなんて、ありえねーよ!」
オレ達は、二人の会話がいまいち飲みこめなかったけど、とりあえず今日ここに来た理由を話すことにする。
「ねぇ、リノファさんいる? オレ達、リノファさんに頼みたいことが……」
「あれ? 拓斗くんだ〜。何してるの?」
その時、ふいに奥のほうから、その声とともに、リンさんが現われた。その後ろに、ランさんとリノファさんもいる。やっぱりオレ達
の予想どおり、リンさんとランさんはこの教会に来ていたみたいだ。
「あら、本当ですわ。……ちょうどよかったですわ」
ランさんもオレ達を見つけると、そう言った。オレは、何がちょうどよかったのか分からず、首をかしげる。
「そやな〜。あんな、拓斗クン。アンタに話しがあるんや〜」
その疑問には、ランさんに続いて話した、リノファさんが答えを言ってくれたから、聞くことはなかった。
「話……?」
オレは、ランさんの顔が深刻なのを見て、きっと話の内容もそうなのだろうと思い、オレも少し、深刻な顔つきになった。