「なんなんだよこの家はっ!」
スピア達は先に行ってしまったインフェリアとスーペリアを追い、カズキ亭を走っていた。
しかし、この家の大きいこと。
外見からもそうとうのものだったが、内面もやはり大きい。
今スピア達が走っている廊下をとってみても、50メートルほどはあろうかという長さだ。
「デタラメだ」
思わずつぶやく大地。
そして、ようやくこの廊下の終りのドアを開けようとしたとき――ガチャ。そのドアが急に開いた。
「!」
そこにいたのはカズキだった。
「どうやら先に行った二人を見る限り、武器を渡すという気はなさそうだね。約束どおり……死んでもらうよ」
カズキのその言葉から分かるように、先にいった2人は、どうやら戦う道を選んだらしい。
「でてこい、ドール!」
カズキがそう言うと、どこから現れたのか、大量のドール達が出現した。
「大地はさがってろ、バーカ」
アフレイドに言われるが先か、大地は10メートルほど離れた場所に行った。
「恐怖に氷つけ、バーカ」
「オレらの俊敏さと」
「戦いの美しさにびびんなよ!」
アフレイドはBCで、ドールを恐怖にのみこませ、スピアとランスはそれぞれの槍で、驚くべき速さでドール達を
なぎたおしていく。やはり、ドールごときどれだけかかってこようとも、スピア達の敵ではなかった。
しかしカズキは、そんなことなど承知していた。カズキのねらいはほかにあったのだ。
「へっ、手応えねーよ、バーカ」
「おっと、少しこちらをみてくれないかな? スピアくん達」
余裕で戦うスピア達に、突然カズキがそう言った。そして、カズキのほうを見ると、
「ご、ごめん……」
「大地っ!」
そこには、カズキにうしろから首にナイフをあてがられる大地がいた。
「本当のねらいはそっちってか」
「手間かけさせやがって、バーカ」
ランスとアフレイドは、そう余裕をかましながらも、内心かなりあせっていた。
「動かないでよ? 大地くんが死ぬことになるよ」
スピア達は当然、その場から動けなくなってしまう。
「ドール達、ゆっくりいたぶってくれよ?」
「ぐぁぁ?!」
長い廊下に、スピア達の悲鳴が響く。
「あっはっは。ドール達、そいつらを血祭りにあげろ〜〜!」
スピア達の体は、みるみるうちに、見るも無残な姿になっていく。腕がとび、足も切り落とされる。だれもが目を覆いたくなる
光景だ。
スピア達はすでに、声をあげることすらできなくなっていた。そして、当たりは鮮血で真っ赤に染まっていた。
「あっはっは。バカだね、こいつら。どちらにせよ大地くんは死ぬ運命にあるのに。さぁ大地くん。サヨナラだ!」
カズキはそう言うと、大地にあてがっていたナイフで、大地の首をおもいきりきりつけた。真っ赤な鮮血がほとばしる。カズキも
返り血をあびて真っ赤になっている。大地はなおも血が噴出しているが、もはやこときれていた。
……そう。こときれているはずだった。
ここでカズキは、妙な事に気づいた。
「ん……? 今大地くんが動いたような……?」
そして、その言葉はすぐに現実のものとなる。
すでに死んでいるはずの大地が、急に立ちあがったのだ。そして、大地の首をおもいきりしめつけた。
「な……?! ぐぁ……」
カズキの意識は少しづつうすれていく。そんな中カズキは、さらにありえない光景を目にする。
こちらもすでに死んでいたはずのスピア達が、這って大地とカズキに近づいてくるのだ。
カズキはそれをみた途端、ついに気を失ってしまった。
――刹那。
カズキの見ていた光景が、まるでガラスを割ったかのように崩れ落ちた。
そして、そのガラスが崩れ落ちるような光景が消えると、そこには、スピア、ランス、アフレイド、そして大地とフィアがいた。
「ありがとう。助かったよ、フィア」
「いえ、マスターを助けるのは当然のことです」
そう、さきほどカズキが見ていたはずの光景は、フィアがBCの力によって見せたものだったのだ。
実は、カズキが大地をつかまえた直後、フィアが戻ってきており、瞬時に自体を把握したフィアは、すぐにカズキにBCの力をかけ
たのだ。その後、スピア達は大地を救出し、今にいたると言うわけである。
「しかし、今回ばかりはさすがにまずかったぜ、バーカ」
「そうだな」
「みなさん、おちついているようですが、まだドールは残っています」
大地を助け、なごやかムードだったスピア達だったが、フィアがそこに釘をさした。だが、
「へっ。そんなやつらいても同じだ。な、ランス」
「おう、スピア」
スピアとランスは、余裕綽々で槍をかまえた。しかし、
「ここはオレらにまかせろバーカ」
「アフレイドの言うとおり、多人数相手では、私達のBCのほうが有利です」
「フイアの言うとおりだバーカ。先にいってインフェリア達を追え!」
と、アフレイドとフィアがスピアとランスにそう言った。一瞬なにか言い返そうとした2人だったが、アフレイドとフィアの
真摯なまなざしを目にし、ただ、コクン、とうなずき、ドアをあけさきに進んだ。
「よし、いくぞフィア!」
「はい」
「そう簡単にいくかな?」
――と。意気込み、BCを使おうとした2人の前に、AMラジオのノイズががった声とともに、突然黒い球体が現れた。
そして、その球体がはじけ飛んだかと思うと、そこにはカイゼルが立っていた。
「本命がお出ましってかよ、バーカ」
「大地さん、悪いですが先にいってください」
「アフレイド、フィア!」
「行け、バーカ!」
敵がどれだけ強大かは、これまでの経緯から分かっていた。しかし、自分がマスターであるツー・ウェイを、見守っていたい
という気持ちもあった。しかし、大地もまた、そんな2人の真摯なまなざしを目にし、先に行ったスピアとランスを追うので
あった。
「さぁ、用はすんだようだな……いくぞ」
大地が行った直後、カイゼルはそう行った。
そして、アフレイド達の戦いは始まった。