4、戦いのはじまり



「なんなんだよこの家はっ!」

 スピア達は先に行ってしまったインフェリアとスーペリアを追い、カズキ亭を走っていた。
 しかし、この家の大きいこと。
 外見からもそうとうのものだったが、内面もやはり大きい。
 今スピア達が走っている廊下をとってみても、50メートルほどはあろうかという長さだ。

「デタラメだ」
 思わずつぶやく大地。
 そして、ようやくこの廊下の終りのドアを開けようとしたとき――ガチャ。そのドアが急に開いた。

「!」

 そこにいたのはカズキだった。

「どうやら先に行った二人を見る限り、武器を渡すという気はなさそうだね。約束どおり……死んでもらうよ」

 カズキのその言葉から分かるように、先にいった2人は、どうやら戦う道を選んだらしい。

「でてこい、ドール!」

 カズキがそう言うと、どこから現れたのか、大量のドール達が出現した。

「大地はさがってろ、バーカ」

 アフレイドに言われるが先か、大地は10メートルほど離れた場所に行った。

u

「恐怖に氷つけ、バーカ」

「オレらの俊敏さと」

「戦いの美しさにびびんなよ!」

 アフレイドはBCで、ドールを恐怖にのみこませ、スピアとランスはそれぞれの槍で、驚くべき速さでドール達を なぎたおしていく。やはり、ドールごときどれだけかかってこようとも、スピア達の敵ではなかった。
 しかしカズキは、そんなことなど承知していた。カズキのねらいはほかにあったのだ。

「へっ、手応えねーよ、バーカ」

「おっと、少しこちらをみてくれないかな? スピアくん達」

 余裕で戦うスピア達に、突然カズキがそう言った。そして、カズキのほうを見ると、

「ご、ごめん……」

「大地っ!」

 そこには、カズキにうしろから首にナイフをあてがられる大地がいた。

「本当のねらいはそっちってか」

「手間かけさせやがって、バーカ」

 ランスとアフレイドは、そう余裕をかましながらも、内心かなりあせっていた。

「動かないでよ? 大地くんが死ぬことになるよ」

 スピア達は当然、その場から動けなくなってしまう。

「ドール達、ゆっくりいたぶってくれよ?」

「ぐぁぁ?!」

 長い廊下に、スピア達の悲鳴が響く。

「あっはっは。ドール達、そいつらを血祭りにあげろ〜〜!」

 スピア達の体は、みるみるうちに、見るも無残な姿になっていく。腕がとび、足も切り落とされる。だれもが目を覆いたくなる 光景だ。
 スピア達はすでに、声をあげることすらできなくなっていた。そして、当たりは鮮血で真っ赤に染まっていた。

「あっはっは。バカだね、こいつら。どちらにせよ大地くんは死ぬ運命にあるのに。さぁ大地くん。サヨナラだ!」

 カズキはそう言うと、大地にあてがっていたナイフで、大地の首をおもいきりきりつけた。真っ赤な鮮血がほとばしる。カズキも 返り血をあびて真っ赤になっている。大地はなおも血が噴出しているが、もはやこときれていた。
 ……そう。こときれているはずだった。
 ここでカズキは、妙な事に気づいた。

「ん……? 今大地くんが動いたような……?」

 そして、その言葉はすぐに現実のものとなる。
 すでに死んでいるはずの大地が、急に立ちあがったのだ。そして、大地の首をおもいきりしめつけた。

「な……?! ぐぁ……」

 カズキの意識は少しづつうすれていく。そんな中カズキは、さらにありえない光景を目にする。
 こちらもすでに死んでいたはずのスピア達が、這って大地とカズキに近づいてくるのだ。
 カズキはそれをみた途端、ついに気を失ってしまった。
 ――刹那。
 カズキの見ていた光景が、まるでガラスを割ったかのように崩れ落ちた。
 そして、そのガラスが崩れ落ちるような光景が消えると、そこには、スピア、ランス、アフレイド、そして大地とフィアがいた。

「ありがとう。助かったよ、フィア」

「いえ、マスターを助けるのは当然のことです」

 そう、さきほどカズキが見ていたはずの光景は、フィアがBCの力によって見せたものだったのだ。
 実は、カズキが大地をつかまえた直後、フィアが戻ってきており、瞬時に自体を把握したフィアは、すぐにカズキにBCの力をかけ たのだ。その後、スピア達は大地を救出し、今にいたると言うわけである。

「しかし、今回ばかりはさすがにまずかったぜ、バーカ」

「そうだな」

「みなさん、おちついているようですが、まだドールは残っています」

 大地を助け、なごやかムードだったスピア達だったが、フィアがそこに釘をさした。だが、

「へっ。そんなやつらいても同じだ。な、ランス」

「おう、スピア」

 スピアとランスは、余裕綽々で槍をかまえた。しかし、

「ここはオレらにまかせろバーカ」

「アフレイドの言うとおり、多人数相手では、私達のBCのほうが有利です」

「フイアの言うとおりだバーカ。先にいってインフェリア達を追え!」

 と、アフレイドとフィアがスピアとランスにそう言った。一瞬なにか言い返そうとした2人だったが、アフレイドとフィアの 真摯なまなざしを目にし、ただ、コクン、とうなずき、ドアをあけさきに進んだ。

「よし、いくぞフィア!」

「はい」

「そう簡単にいくかな?」

 ――と。意気込み、BCを使おうとした2人の前に、AMラジオのノイズががった声とともに、突然黒い球体が現れた。 そして、その球体がはじけ飛んだかと思うと、そこにはカイゼルが立っていた。

「本命がお出ましってかよ、バーカ」 「大地さん、悪いですが先にいってください」

「アフレイド、フィア!」

「行け、バーカ!」

 敵がどれだけ強大かは、これまでの経緯から分かっていた。しかし、自分がマスターであるツー・ウェイを、見守っていたい という気持ちもあった。しかし、大地もまた、そんな2人の真摯なまなざしを目にし、先に行ったスピアとランスを追うので あった。

「さぁ、用はすんだようだな……いくぞ」

 大地が行った直後、カイゼルはそう行った。
 そして、アフレイド達の戦いは始まった。 


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