3章 高校にて

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「お、拓斗! ギリだな〜」
 ここはオレのクラスである二年二組。
 オレは、走った甲斐があって、始業の一分前に教室に入ることができた。
 オレが教室に入ると、ドアの近くで雑談をしていた秀也が、オレが入ってきたのを見つけたらしく、オレにそう話かけてきた。
「はあ、はあ……。しゅ、秀也おはよ……。疲れたぁ」
「拓斗がギリギリなんて珍しいな」
「まあね……」
 少し雑談をしたオレと秀也は、そろそろ先生が来そうな予感がしたから、それぞれ席につくことにした。その後、座った瞬間のグッドタイミングで先生が来て、朝の諸連絡を始めた。 でもオレは、あることで頭が一杯で、その連絡はさっぱり耳に入っていなかった。
 さっき秀也を目にして、改めて、秀也とシュラ様が似ている 、と思った。実は本人かも、とか考えたけど、雰囲気がぜんぜん違うし、それは違う気がする。秀也は双子かも、とも考えたけど、オレと秀也の付き合いはそれなりに長いし、知らないはずがない。いろいろ考えているうちに、秀也に話してみたくなったけど、そうすると魔法のことに触れないだろうから、やっぱりそれはできない。部外者っぽい人に魔法のことを話すのはまずそうだ。結局オレは、なんの答えも出ず、もうこれを考えるのはやめようと思い、終わりかけの連絡を聞くことにした。

 今は、午前中の授業が終了して、昼休みだ。
 みんな、それぞれ持ってきた弁当や、どこかで買ったパンなどを食べている。
「ったく、弁当も金も持ってないってどういうことだよ、拓斗〜」
「わるいわるい。朝起きたら大ピンチだったから……」
 オレは、朝寝坊をして、さらにレイさんの対応におわれていたから、お金や、ましてや弁当なんて用意できるはずもなく、しょうがないから、秀也にお金を借りて、購買でパンを買った。そして、オレと秀也も他のみんなと同様、それを食べ始めたところだった。
「あっ、そうだ、なあ、拓斗、川嶋がさ〜」
 しばらく食べていると、秀也がオレにそう言った。
「ん? 智がどうかした?」
 秀也の口から出た、川嶋、というのは、川嶋智則のことだ。オレの幼馴染で、秀也と同じ部活の、オレ達の一個下、つまり、高校一年だ。
「あのさ、この前部活終わって帰ろうとしたらさ、校門の前に川嶋がいてさ、まあ部活一緒なんだし帰る時間が同じで 当たり前なんだけどよ、声かけようと思ったら川嶋のやつ、なんと女といやがるんだ!」
「うっそ、マジで?! 智ってすっごい大人しいから彼女なんていないと思ってたよ。で、で、どんな人だった?!」
 やっぱり、誰でも他の人の恋愛には興味があるもので、オレは、秀也とシュラが似ているという件のことなどすっかり忘れて、秀也のその話に、食いついてしまった。
「それがさ、それがさ、かなりカワイイんだって。で、このオレ天野秀也が、ばっちりケータイにおさめちゃいました!」
「おお! さすが秀也〜!!」
 オレ達は、少し妙なハイテンションで、話をすすめていた。
 そんなとき、オレ達の話に入ろうとしたのか、一人の男がオレ達に近づいてきた。
「おい天野〜。オレもその話混ぜろや〜」
「お、湖矢。いいぜ」
 この男は湖矢裕務。湖矢も秀也と同じ部活で、なかなか仲が良い。そう、秀也とは仲がいいんだけど、
「待って、秀也。オレこいつと一緒ってのはやだな〜」
「はぁ〜? オレは天野に言ってんだよ。倉地には言ってねえっての、バ〜カ」
 オレとは、仲が悪いんだ。仲が悪いっていうか、友達でもない。いつからそうなってしまったかは分からないけど、湖矢はオレと顔を合わせると、すぐにケンカごしで話し出すのだ。オレは、そんなつもりはないけど、同じくケンガごしでそれを返す。秀也とかほかのみんなは、”ケンカするほど仲がいい”なんて言ってるけど、そんなことは断じてない。 「まあまあ、落ち着けって二人とも。二人とも見せてやるって」
 そんなとき、いつも仲裁に入ってくれるのは秀也だ。湖矢と話してると、ひくにひけなくなるから、こういう秀也の行動は正直助かる。
「お〜、見せろ見せろ」
「おい湖矢、さっきさりげなくオレらの話聞いてたでしょ?」
 秀也は、苦笑しながら、制服のポケットから携帯電話を取り出した。オレとしたことが、オレから湖矢にからんでしまった。
 とにかく、オレと湖矢は、その携帯電話に顔を グッと近づける。秀也は、もったいぶるかのように携帯電話をゆっくりと操作して、その画面をオレ達に向けた。
「うお、マジかよ! すっげーカワイイ!!」
 湖矢は、驚いてそう言って、秀也の手から携帯電話を奪い取った。でもオレは、そんな湖矢など全く気にせず、ただ呆然としていた。
 なぜなら、そこに写っていたのは、智則と、なんと、カノンだったからだ。
 一瞬別人とも考えたオレだけど、そのおっとりとした感じは、間違いなくカノンのものだと思った。
 カノンと智って面識があるのか? あったとしても、カノンは十八歳だから、智とは三つも違う。いろいろ考えたオレだけど、なぜ智則とカノンが一緒にいるのか、分かるはずもなく、なんにしても、オレにまた悩みの種が増えたのは、間違いないことだった。


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