1章 キミを魔人に育てます!

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「じゃあまず、あたしが見本みせるからね」
 ここは、さっきまで海美さんがいた奥の部屋。この部屋は、はっきりいって何もない部屋で、あるものといえば、窓が一つと、天井に蛍光灯くらいなものである。オレは、海美さんにつれられ、この部屋にきていた。
 海美さんがさっきまでこの部屋にいたのは、なにか準備をしていて、どうやらオレに魔法を教えようとしているらしい。
 オレは、いきなりそんなことになって、なにをされるのか分からず、やめてくれ、などと考えていたけど、オレの性格上、流されるままの状態になってしまう。
「み、見本って、魔法の……ですか?」
 海美さんのその言葉に、オレは不安がって問う。
「当たり前でしょ〜? あ、もしかして、まだ魔法のこと信じてないの? さっきレイちゃんの魔法みたでしょ? だいたい、 あたしがキミに魔法かけたことあるでしょ? しかもそれ、一、二時間前だし」
 そんなオレの問いに、海美さんは少し不満そうにそう言った。
「あ、いえ、そういうわけじゃないんです!」
 それを聞いたオレは、慌ててそう言って訂正する。さっきの山綺さんみたいに、怒って何かされたら、たまったものではないからだ。
「あはは、面白いな〜拓斗くんは。あたしはレイちゃんとは違うよ〜」
「聞こえているぞ、リン!」
 そう言った海美さんだったけど、リビングにいる山綺さんからそう言われてしまい、
「ひえ〜〜、ゴメンレイちゃーん!」
 と、即座に謝った。
 オレは、そんな二人の会話をおかしく感じながらも、また海美さんに考えていたことを読まれたようなきがして、 少し落ち着かなかった。
「あ、ゴメンね拓斗くん〜。それじゃ、見本みせるね。とりあえず、初級魔法」
「初級魔法?」
 オレは、その言葉の意味を理解できず、思わず問う。
「あ、そっか。じゃあまず、そこから説明するね。……ねえ拓斗くん。魔法ってどうやって使うか、わかる?」
「え、ちょっと、わかんないですね……」
 逆に問い返されてしまったオレだけど、当然、わかるはずもなくそう言う。
「うん、それはね、”イメージ”によるものなんだ」
「イメージ?」
 オレは、またその言葉の意味を理解できずに問う。
「そう。頭の中で何かをイメージして、それを具現化する。これが、魔法、というものなんだ」
「は、はぁ……」
「まだ、わかんないよね。じゃあ、見本もかねて、一つ例見せるからね」
 海美さnはそう言うと、どこから出したのかは分からなかったけど、ろうそくを手に取った。
「今あたしは、このろうそくに火がついているのを頭でイメージしてる。で、そのイメージを具現化、つまり、魔法を使うと……」
 そして、オレにそう言って、目線をろうそくにうつした。すると、たちまちろうそくに火がともってしまった。オレは、今目の前で起こった光景を、いまいち信じることができず、ただただ目をパチクリさせる。
「とまあ、こういう具合かな? で、少し話が離れちゃったけど、魔法ってね、初級、中級、上級、っていうふうにわけられてるんだ。 それでね……」
 海美さんはそう言って、オレに説明をはじめた。
 初級魔法とは、現実にも当然のように起こること、つまり、頭の中でイメージしやすいものを、魔法として使うものの ことで、例えば、火、水、氷などがそれにあたるらしい。
 次に、中級魔法っていうのは、現実でおこってもおかしくはないことを魔法として使うことで、これは、地震、雷などがそうらしい。
 最後に、上級魔法は、現実では起こりえないことを使うことで、さっきほど山綺さんが使った、石化などがそれにあたるということだ。
 早い話が、頭でイメージしやすいものが初級で、しにくいものが上級、というわけらしい。
「……だいたいこんなかんじ、かな? わかった?」
「は、はい……。なんとなく……」
 オレは、本当はほとんど理解できていなかった。でも、これだけは思う。魔法は、実在する、ということを。
「んじゃ拓斗くん。早速やってみよ〜!」
「え?! オレが??」
 オレは、少しは予想してたけど、ついに海美さんから”魔法を使え”ということばを聞き、どうすればいいか分からず、とまどうことしかできない。
「え、でも、オレ……」
「大丈夫、大丈夫! 誰だってできるんだから。魔法を使う力……魔力はね、どんな人だって、少なからずもってるんだよ」
 海美さんはそう言うと、そっと目を閉じ、両手を自分の胸にあてた。オレは、そんな海美さんを見て、なんだか、なんともいえない、不思議な気分になっていた。
「どんな人間でも、魔力はある。ただ、それを知らないだけ。たとえ知ってたとしても、それを使うすべを知らないだけなんだ。 あたし達魔女はね、ただ、そのすべを知っていて、使えるだけ。だから、普通の人間と何もかわらない。だからね、拓斗くん。 キミにも使えるよ、魔法は。さあ、やってみて!」
 そして、そう言い終わると同時に両手をひろげ、ひらいた瞳でオレをジッ見た。オレは、その澄んだオレンジ色の瞳に見つめられ、少しドキドキしつつ、 なんだか吸い込まれそうな気分になった。
「なーんて、らしくないこと言っちゃった! まあ、そうは言っても、普通の人がいきなり魔法を使うなんて無理だからさ……」
 海美さんはそう言うと、またどこから出したかは分からなかったけど、ペンダントを取り出した。
「これ、首にかけてみて」
 そして、それをオレに手渡す。
「これは……?」
 オレは、妖しい黒い光を放つそのペンダントを、不思議に思い、見つめる。
「それはね、つけた人の魔力を吸い取っちゃうペンダントなんだ」
「えっ?!」
「あ、といっても、ホントにわずかな量だけなんだけどね。さっきもいったけど、魔力の存在に気づいても、普通の人じゃそれを 使えない。じゃあ、それはなんでか。それはね、魔力を体外に出す方法を知らないから。で、そのペンダントをつけると、魔力 が吸い取られる。つまり、魔力が体外に出る。だから、そのペンダントをつけてると、魔力が体外に出ることを体が覚えて、 自然とそのペンダントなしでも魔法が使えるようになる、ってわけ。……って、今のぜ〜んぶレイちゃんの受け売りだから、 あたしはよくわかってなかったりするんだけどね〜」
 オレは正直なところ、よく分からない、しかも現実離れした話ばかり聞いていて、本当にパニックを起こしそうなほど混乱していたけど、とにかくその黒い光を放つペンダントを つければいい、そう思い、そのペンダントを首からさげた。すると、すぐに奇妙な感覚に襲われた。どう表現すればいいか分からないけど、オレの体の中の何かが、このペンダントの中に入っていく、そんなかんじだ。
 とにかく、そんなかんじのことが、オレの体の中、それとペンダントに起こっている。オレが、それが魔力を吸い取られるということだと気づくまでに、 そんなに時間はかからなかった。
「さあ、拓斗くん。イメージして。頭の中で、このろうそくに火がともることを。それで、イメージが最高潮に達したその時、 それを体外に放出するとともに、手を叩くんだよ。それが、自分に対しての合図になるから!」
 オレは、その妙な気分は気になったけど、とにかくそれを頭の中で思い描いた。そして、自分の中で、今だ、と思えるタイミングがきたその時、勢いよく、手を、パン、と叩いた。そして――

 そして、現在に至るわけである。
 その後もオレは、何度も同じことを試みたんだけど、結局うまくいかなかった。
「あは、拓斗くん、はじめはだれだって失敗するもんだから、ね? とにかく、あたしは、キミを魔人に育てます!」
 なんだかよくわかんないけど、かなり大変なことに巻き込まれてるんだね、オレ。本当、もう、どうなっちゃうんだろう。
 人差し指でビシッとオレを指しながらそう言う海美さんを見て、オレはそんなことを考えて、この先のことに、思いをはせているのであった。


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