1章 キミを魔人に育てます!

     3


 そうだよ。そうなんだよ。普通に考えれば魔女なんているわけないもんね。うん、そうだ、間違いない。さっきの海美さんとかいう のが言ってたのも全部嘘なんだよな。きっとさっきの魔法ってのも、あれだ。なんか事故だったんだよ、あれは。だってそうだよね、 魔女ってのは、もっと魔女っぽいところに住まないとだめだよね。
 海美さんと山綺さんと名乗る二人の女の人に誘拐、されてしまったオレは、その二人の住んでいるところにつれてこられていた。そして、それを見たオレは、唖然としてそんなことを考えていた。
「あ、拓斗くん。今、魔女なのにこんな普通のマンションに住むなんて変だ、とか思ってるでしょ?」
 その場所とは、ごくごく普通のマンションだ。
 だからオレは、海美さんと山綺さんに、いまさらながら違和感をおぼえて、少し強引に自分を納得させようとしたのだった。
「え、あ、すいません……」
 でも、そんなオレの考えはお見通し、とでもいうように、海美さんがそう言ったので、オレは、なんとなく謝ってしまった。 やっぱり、頭の中では納得したつもりでも、オレはたしかに”浮く”ということを体験してしまったからかもしれない。
 結局オレは、そのままマンションへと入ることになってしまった。

 二人のの部屋は、マンションの二階にあった。
 外見もそうだったけど、やはり中も、いたって普通のマンションである。普通に玄関があって、普通にリビングやキッチンもある。 テレビやソファなどの家具とかも、どこの家にもあるようなものばかりである。
「座れ」
 よくわからなくなってきたオレが、部屋をキョロキョロ見ていると、海美さんがまたオレを睨みつけながらそう言った。その、いかにも有無を言わせず、とでも言わんばかりの山綺さんの目を見て、オレはあたふたしながらソファに腰かけることしかできなかった。その、 テーブルを挟んで、反対側にあるもう一つのソファに、山綺さんも座った。
 山綺さんは、相変わらずオレを睨みつけている。それが、ホントに恐くて、オレはずっと下を向いていた。
 そうしてしばらくそのままの態勢でいると、なんとなく嫌な雰囲気になってきたような気がしてきた。
 さっきまでは、なんとなくその場をなごませていた海美さんがいたけど、今ここにはいない。海美さんははというと、部屋に入ってすぐに、奥の部屋に行ってしまい、今この部屋にはいない。
「……おい、貴様」
「は、はい!」
 しばらく嫌な雰囲気があったあと、急に山綺さんが口をひらいた。
 山綺さんはかなり小さい声でいったのだけど、その声にはすごく迫力があって、オレは思わずビビリながらそう返事をしてしまう。
「……貴様、まだ私達が本当に魔女だと信じていないな?」
 相変わらず迫力のある声で、しかも図星をつかれてしまったオレは、ますます小さくなってしまう。さらに、
「どうやら本当にそうらしいな。……では、証拠を見せてやろう」
 と言って、スッと立ちあがった。
「え、あ、ええ?!」
 いくら魔法のことを信じきれていないと言っても、それでなくても恐い山綺さんが、そんなことを言うのだ。オレは、なにをされるか 気が気でなくて、本当はすぐにでも逃げ去りたい気分なんだけど、腰がぬけてしまって、立ちあがることすらできなかった。
 山綺さんは、オレをジッと睨みつけたまま、両手を叩いて、パン、と音を出した。
 ――刹那。
 オレの視界の左隅に、何か白黒っぽいものが写った。そして、その白黒っぽいものは、そのままオレの前を横切ろうとしたけど、 なぜかちょうどオレの目の前で一瞬停止し、そのままオレの右足に落下した。
「いっ?!」
 オレは、思わず声をあげながら地味に痛がりつつ、オレの足に落ちたそれを見てみる。それは、少し大きい石だった。というより、猫の形をした石である。
「待て〜〜〜シマ〜〜〜〜!」
 オレが、不思議に思いながらその石を見ていると、突然海美さんの声がして、奥の部屋から、海美さんが走って出てきた。そして、
「ねえ、レイちゃん。こっちにシマがこなかった?」
 と、山綺さんに言った。
 山綺さんは、
「それだ」
 と、オレの見ている石を、指さしながら言った。
「あ〜〜〜! レイちゃん、なんてことを……」
 それを見ると海美さんは、そう言いながらオレの足下にある猫の形の石を抱きかかえた。そして、
「もう! レイちゃん、なんでシマを石にしちゃうわけ〜〜?!」
 と、山綺さんを軽く睨みつけながらそう言った。
「別に、死魔を石にするつもりはなかった。ただ私は、そこの男がまだ魔法を信じておらんようだから、証拠を見せようと思って、 そいつに魔法をかけようとした。だが、ちょうどその瞬間に死魔がきて、死魔に魔法がかかった。ただそれだけのことだ」
 それに対して山綺さんは、海美さんに近づきながらそう言って、両手を叩いて、パン、と音を出した。
 すると、海美さんの抱きかかえている石が、だんだんと色が変わっていって、シマシマ模様の猫が現われた。
 オレは、その光景を見て、いまいち何が起こったのか分からず、思わず目をぱちくりさせる。
「そういうことか! ……って、それじゃあレイちゃんは、拓斗くんを石にしようとしたわけ?」
「そのとおりだ」
そのとおりだ。って、ちょっと待ってよ。というか、猫が石に? そしてまた猫に? どういうことなんだよ、いったい。もしかして、本当にこの二人、魔女なのか?
「まあいっか。あのね、拓斗くん、この猫ちゃんは”シマ”っていうんだよ。よろしくね」
「漢字で書くと、死ぬ、に魔法の魔、だ」
「レイちゃん、それ嫌いっていってるでしょ〜!」
「ニャー」
 自問自答するオレに、のん気に海美さんは抱えた猫の紹介をする。そして、のん気に鳴く猫、死魔。
 オレは、それを見て、なんとなく、うらめしく思うのであった。


 TOP 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送