1章 キミを魔人に育てます!

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「あのぉ……、どこに行くんですか?」
 オレは、さっき二人の女の人に会った場所から、だいたい十分くらい歩いた場所まできていた。といっても、オレ自身は歩いてなくて、浮かんでるだけなんだけど。
「ゴメンね〜。車、少し遠くにとめすぎちゃったんだー」
 オレンジ女の子が、オレの方を向いて、両手をあわせて謝った。そんな彼女を見たオレは、車、いうことばを聞いて、ついに誘拐か、などと考えていた。でもそれ以上に、今なぜ浮いているのか、という大問題もある。でも、これ以上深く考えすぎると、パニック状態になってしまいそうだった。だから、オレは考えるのをやめて、 とにかく、なされるがままに、進んでいった。

 しばらくすると、一台の黒い軽自動車が止まっているのが見えた。たぶん、二人の女の人のものなんだろう。
「ふぅ。さぁ〜て、ここまできちゃえば、もう魔法解いてもいいよねー」
「そうだな」
 二人の女の人はそう言うと、二人ほぼ同時に両手をたたいて、パン、と音を出した。そうすると、浮かんでいたオレの体が、急に落下した。 落下したといっても、もともとほんのすこししか浮いていなかったから、たいした衝撃ではないはずなんだけど、突然のことで 驚いてしまって、着地に失敗して尻もちをついてしまった。正直、かなり痛い。でも、そんな痛みを忘れさせるほどの出来事がおこった。それそれは、今まで周りに人などいなかったのに、急にあたりに道を行き交う人々が出現したんだ。
 今考えると、オレが家に着かないという妙な現象にあってから、二人の女の人以外は人っ子一人いなかった気がする。オレは、これには驚いてしまった。さらに、オレンジの女の子の口から、魔法などという、あまりにおかしな言葉まで飛び出した。本当、オレはパニック寸前だ。
「あ、ゴメンね拓斗くん。驚いたよね?」
 オレンジの少女が、転んでいるオレを見て、手を差し出しながらそう言った。
「あ、はい……。大丈夫です。そ、それより、あなた達はいったい……?」
 なんとなくその手をつかむのに抵抗を覚えたオレは、自力で立ちあがりつつ、さっきからの疑問を口にした。
「ふふ。詳しい話は、車の中で、ね?」
 オレンジの女の子は、人差し指を立ててそう言って、オレの後ろに回り込んで、オレの背中を押すようにして、を車の後部座席 に強引に座らせた。オレは、さっきのこと――オレンジの女の子の言うところの魔法のこともあり、なすすべもなく車に乗ってしまった。 青い女の人は、いつのまにか運転席に乗っている。そして、助手席にはオレンジの女の子が座った。
 ついに車に乗ってしまったオレ。もう、いったいなにがどうなってるんだ。
 オレは、かなりの絶望感を感じていたけど、オレの気持ちとは裏腹に、ブン、という音とともに、車は発進してしまった。

 ここは、車の中。
 オレは、さっきとは違って、座っているのでまだ落ち着いてる気分にはなるけど、やっぱり、オレのおかれている 状況を完全に理解することができなかった。
 オレはさっきまで、自分は誘拐されたものだと思っていた。でも、今オレは、車にこそ乗せられているんだけど、縛られたり、両側をがっちりガードされているわけでもない。つまりオレは、その気になればいつでも逃げ出すことが可能なわけだ。 それに、
「じゃあ自己紹介するね〜〜」
 とオレンジの女の子は言うんだ。
 普通、誘拐するような人は、そうやすやすと名乗ったりするだろうか。だいたい、相手はまだ女の子だ。さらに、魔法というなんともいえないその言葉も頭にひっかかる。だから、オレはバカみたいに混乱して、いまいち状況を理解できずにいた。
「えっとね、あたしの名前は海美リン。十五歳だよ。字はね、海に美しいと書いて海美で、リンはカタカナだよ〜」
 でも、混乱するオレをよそに、リンと名乗るオレンジの女の子は、マイペースで話を進めていく。オレはやっぱり、流されるがままだ。
「それでね、こっちのちょっと恐そう……実際恐いんだけどね、山綺レイちゃん。十九歳だね。字は、普通の山に、綺麗の綺に、カタカナ でレイだよ〜」
「一言余計だ」
 次にオレンジの女の子……海美さんは、運転している青い女の人のかわりに紹介した。でも、その青い女の人……山綺さんは、その紹介が気に触ったらしく、
「い、いった〜い! ね? 恐いでしょ、拓斗くん」
 一発、海美さんの頭にげんこつをおみまいした。
 オレは、このムードの中にいると、不思議と不安が消えていくようなきがした。
 オレ自身、なぜそうなったかはわからない。でも、山綺さん、十九歳なんだ、もっと年上かと思ってた、とか、二人は仲いいんだな、とか、考えることができるほどの余裕が生まれていることは、間違い無かった。
「んじゃ、次はいよいよ、あたし達の目的ね」
 余裕が生まれたオレは、その目的という言葉が少し気になったものの、なんとなく、どんな話でも理解できるような気がしていた。 が、しかし、
「驚くかもしれないけど、あたし達って、魔女なんだ」
「……え? ええ? ま?」
「うん、そうそう、魔女。あ! 魔女っていってもさ、なんか変なクスリ調合して、それで人とかを殺しちゃうような、黒い服着た おばーさんっていうイメージあるかもしれないけどさ、ぜんぜんそんなんじゃないからね? 魔法を使う女、略して魔女、 とでも思っておいてね?」
「え、えっと……?」
 海美さんのいきなりのその発言にオレは、せっかく生まれた余裕が消えて、せっかく消えた不安がまた生まれていくのを感じていた。
「それでね、なんであたし達がキミをこうして捕まえちゃったかっていうと、あたし達魔女って、四年に一回、 ”魔人育成の儀”ってのがあるんだけど、それによって、普通の人間を魔人とか魔女とかに育てないといけないんだ。ちなみに、 魔人っていうのは、魔女の男の人バージョンね」
 淡々と語る海美さん。オレは、ただ聞いているのがやっとだったけど、その魔人育成の儀っていうのは、海美さんや山綺さんのような魔女、それか魔人が、魔力を持たない普通の人間を、魔力の持つ人間、つまり魔人や 魔女に育て上げるという、簡単に言うと、四年に一度の儀式とでも呼ぶもの。それで、それは新しく魔力を持つものを増やす、 という面で大切なことだそうだ。
 でも、それ以上に、育てる側にとって大切なことがあるそうで、それは、育てた人間が、どれだけ強い魔力を持ったかによって、その育てる側をランク付けする、ということで、これがあるからこそ、 育てる側である魔人や魔女は、この四年に一度の儀式がやってくると、みんながみんな、懸命に、少しでも才能のある普通の人間を 探し出し、捕まえようとするのだ。そして、海美さんと山綺も、例外じゃなくて、
「つまり、拓斗くんは、魔人としての素質があるから、あたし達はキミをこうして捕まえちゃったわけよ」
 と、いうことらしい。
 もう、オレは頭がパンクしてしましそうだ。その言葉の意味もよくわからなかったし、はっきりいって、おかしい単語、魔力だの魔法だの、というのが連呼されて、オレはこの二人の女の人をどう解釈すべきか、やっぱり分からなかった。
 海美さんの話が終わると、ちょうどその時車がとまった。
「ついたぞ」
 どうやら目的地に到着したみたいで、山綺さんがそう言った。
 本当は、何か言いたかったオレだけど、なぜか山綺さんがこっちを睨んでて、それがすごく恐いので、話すことができなかった。山綺さんはどうやら、 はやく降りろ、といいたいらしい。オレはしかたなく車を降りることにした。
「え……? こ、ここ??」
 車を降りたオレの見た目的地は、意外な場所だった。


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